人が多くて賑やかなのも悪くはない。むしろ好きな方だ。その方がバズりそうな楽しげな写真たくさん撮れるし。でも、たまには静かにできるところへ行こうと今年の夏は彼女を水族館に誘った。室内であれば涼しいし、水槽の映える写真を撮ればマジカメに使えるし。
だから、館内にこんなにめちゃくちゃ人が多いのは想定外だった。魚じゃなくて人間を見にきたような感じ。走り回る子供の賑やかな声や、制服を着た学生グループの笑い声が妙に頭に響く。息苦しい。
「ケイトくん、大丈夫ですか?」
「えっ、何? 全然平気だよ!」
隣にいた彼女に手を掴まれながら声をかけられて出来る限りいつも通りにっこりと笑ってみせる。そうだ、さっき小さな兄妹が持っていたペンギンが乗ったかき氷をあとで買いに行こう。あの鮮やかな色合いはマジカメ映えするに違いないし。
そこまで考えたところで、繋いだままの手をぐい、と強く引かれた。思わず驚いて「ちゃん!?」と呼びかけても彼女は返事をすることなく、至るところにある水槽に目を向けることもなく、どんどん先へ先へと歩いていく。
「ちゃんそっち順路じゃない、」
「知ってます」
順路から外れたせいかどんどん人がまばらになっていく。だんだん息苦しさが消えていく。そうして辿り着いた『特別展示室』と書かれた部屋の入り口は自動ドアをゆっくり開いて俺たちを招き入れた。
しん、と静まり返った室内には二、三組の客しかいなかった。はオレの手を引いたままつかつかと展示のそばのベンチに近寄りオレを座らせてから、鞄から取り出した水の入ったペットボトルを差し出して、自分も隣に腰掛けた。
「熱中症になったら大変だから、飲んでくださいね、」
「あ、うん」
どうやら水分不足の方を心配させてしまったようだ。こくりと頷いてボトルの蓋を開けると彼女は満足そうに微笑んで、ガラスケースの中の大きな展示物の方を向く。それにつられてオレも自分の背丈よりもずっと大きなそれをまじまじと眺める。どこからどう見ても骨だった。下の方に『太古のクジラ アンブロケトゥス』と解説が書かれている。
「ちゃん、何、ここ」
「水中生物の化石の展示コーナーなんですって。水槽のコーナーも綺麗だけど、ここも静かで良いですよね、」
「それは分かるけど……骨ばっかりじゃん」
「ケイトくんは苦手ですか? こういうの、」
「……苦手じゃないよ、」
茶色やベージュの化石たちは全然映えないけど、見応えは充分だ。彼女の肩に頭を乗せて大昔のクジラの背びれを眺める。こんな風に骨になるまで彼女とここに居たい、だなんて大袈裟なことを思いながら。