Jewelry Box宝石箱のひみつ
since.2020.05.27

砂糖菓子ワルツ

 油断していた。学校を離れたら未熟な魔法士見習いたちの奇妙な魔法が暴走することも、彼女がそんな奇妙な魔法の被害に遭うこともないだろうとタカを括っていたんだ。だから「ケイトくんの学校の近くまで遊びに行きたい」という彼女を止めなかったしむしろ諸手を挙げて歓迎したわけで。……まさか、雑貨屋の隅で売ってあったアイシングクッキーを食べた途端、彼女が子供になってしまうだなんて……。

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 どう対処すれば良いか迷って見た目も中身も3歳か4歳くらいになってしまったをとりあえず寮まで連れて行ったらすぐにリドルとトレイに見つかった。彼女に会ったことがある二人なら多少は事態の説明がし易いかもしれない。……『多少は』だけれど。オレと手を繋いだ彼女を見た途端、リドルは「……ケイト、その子はどこから攫ってきたのかい?」と怖い顔をして、トレイは「少しに似てるな、……だからってよその子を連れてくるのは……」と困ったような顔をする。オレが何か言う前に勝手に人を誘拐犯扱いしないで欲しい。うちの寮長も副寮長もオレのことをなんだと思っているのだろう。

「誘拐じゃないし、犯罪じゃないから! これ、ちゃん本人!」

 そう声を荒げると、二人は「……えっ、」「……本人?」と目を見開いてオレの顔と彼女の顔を交互に見る。そうしてリドルは「ケイト、バレバレの嘘はやめておいた方が良い、」とため息をつき、トレイは彼女と目線を合わせて「お嬢さん、名前は?」と問いかけ始めた。……なんというか、ちょっとくらいオレのことも信用して欲しい。

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 アイシングクッキーが入っていた袋を見せてなんとか二人の思考から誘拐の線を消し、これから彼女をどうするかを話し合うため談話室のソファーに座る。改めて、休日で寮にほとんど誰もいなくてよかった。オレの膝の上で大人しくトレイに与えられたココアを飲んでいる彼女は、自分の恋人である、という贔屓目を抜きにしてもとてもかわいい。勿論、普段の17歳の姿の彼女もとてもかわいらしいが、このサイズだと、なんというか、まるで精巧な作りをした人形みたいだ。ふわふわキラキラのかわいいものに慣れていない全寮制の男子高校生たちの好奇の目にさらされていたに違いない。そうしているうちに、クッキーのパッケージと睨めっこしていたトレイが「なるほど、」と声を上げる。「何かわかった?」と問いかけると、菓子屋の息子でサイエンス部所属の彼は「ああ、」とこともなげに頷いた。

「そこまで強力じゃないようだが若返り薬の成分が入っていたみたいだな、数時間で元に戻るようだが……」

「ちゃんとパッケージに書いてあるじゃないか、買うときによく見なかったのかい?」

「『映える〜ちゃんへのお土産にしよ〜』としか思いませんでした……」

 あはは、と頬をかくとトレイに「注意力が足りないんじゃないか?」と呆れた視線を向けられる。返す言葉もない。しゅん、と反省したように下を向くと、『ハートの女王の法律』さえ破らなければなんだかんだ優しいリドルは「やれやれ」と息を吐いて手を伸ばし、「大人しくできて良い子だね」との頭を撫でる。

「『ハートの女王の法律』で『子供を寮に入れること』を禁止されてはいないから一先ず元に戻るまで寮にいても構わないよ。……ここだと人目もあるからケイトの部屋に連れて行くと良い」

「本当!? 流石リドルくん、話が早い〜!」

「だけど、『法律』を破ったときはお分かりだね?」

 そう言って眉を釣り上げるリドルに「わかってるって!」と返して、子供になってしまった彼女を抱っこしたまま自室に連れて帰る。とりあえず大事にならなかったことにほっとして、ドアを閉めた途端、無意識にため息をついてしまった。

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 本当の話をすると、購入する前にちょっとだけ、クッキーのパッケージに書いてある説明は読んでいた。軽い悪戯のつもりだったんだ。ちょっと幼い姿になった彼女に「変なもの食べさせないでください!」とかいって怒られてみたいな、多分怒っててもかわいいんだろうな、だなんて思ったりして。……まさか中身まで子供になるとは想定外だったけれど。

 

 それはそれとして、大人しくオレの言うことを聞くこの小さな女の子はとてもかわいい。元々音楽が好きな彼女だがそれはこの姿になっても変わらないらしく、部活で使ってるギターを触らせたらとても喜んでいた。

「……これはこれで、悪くないなあ」

「わるくない?」

 なんでもないよ、と頭を撫でてやると心地良さそうに目を細める。中身も幼くなっているはずなのに全然人見知りしないしなんならオレに懐いている気さえするから、もともとこういう警戒心の薄い子だったのだろうか。……それとも少しはオレのことを覚えてくれているのかな。そう疑問に思い「ちゃん、オレの名前わかる?」と問いかけると「おなまえ?」と首を傾げながら返された。

「はは、わかんないかあ、『ケイトお兄さん』だよ。呼んでみて」

「ケイトおにいさん……?」

「そうそう! かわいー! もう一回呼んで! 動画撮っとこ!」

「ケイトおにいさん、」

 よくできました、とまた彼女の頭を撫でて、動画を保存する。と、これまでに撮影した動画がずらりと一覧で表示された。この前のお茶会の様子、軽音部のリハの様子、わけのわからないテンションで大笑いする後輩達の様子、そして、いつもの彼女が振り返ってにっこり笑いオレの名前を呼ぶ様子。

「……やっぱり、いつものちゃんに早く会いたいなあ」

 小さく呟いて、幼い少女の髪の毛をさらりと梳り、頬にそっと手を添えると、何にも知らない無垢な子供は不思議そうに目を瞬かせている。いつもの彼女なら、こうしてやったらキスされるって思って頬を染めて目を閉じるのに。折角大好きな女の子が側に居るのに、なんだか寂しくてたまらなくなって、自業自得すぎて思わず苦笑してしまった。