卒業式の後学校に来なければならないなんてなんと面倒なんだろう。まあ確かに、式の時点では進学先の学校が決まっていなかったから諸々の手続きが必要なことはわかるが。
ようやく大量の書類の提出を終えて、欠伸を漏らしながら中庭を歩いていると、音楽系の部活が共同で部室がわりにしている楽器庫からギターの音が降ってくる。そのまま帰ろうと思っていたが、なんだか、そのギターの音が偶然とは思えなくて、運命のように思えて、導かれるように階段を登り、廊下を渡り、いつの間にか部屋の前へたどり着いてしまっていた。
躊躇なくがらりと引き戸を開けると予想通り、一つ下の学年の・が備品のアコースティックギターを順番にチューニングしていた。授業や部活でギターを使う時そこまで音がズレていないのは真面目なこの子がこうして定期的に音を合わせているおかげだ。
「ちゃん」
声をかけると下を向いていた彼女はパッと顔を上げて「え、ダイヤモンド先輩?」と驚いたような顔をする。「やっほ」と手を振ると礼儀正しく「お疲れ様です」と頭を下げる、彼女のことが、ずっと前から好きだった。……口に出して伝えたことはないけれど。
「卒業式終わったのに、何か用事あったんですか?」
「そー、職員室に進学先に関する書類色々提出して、あと忘れ物あったから取りに来た」
「そ、ですか、……学校、どこ行くんですか?」
「……ナイトレイブンカレッジ」
「あ……全寮制の、」
寂しくなりますね、と彼女は眉を下げる。この子のこの言葉を、素直に捉えて良いのだろうか。……オレも寂しいって言っても良いのかな。
嫌われてはないと思う。むしろ、好かれていると思う、たぶん。
だから、少しだけ、わがままを言っても許されるだろうか。今思ってることをそのまま伝えても許されるだろうか。許して欲しい。彼女に。
「……ちゃん、オレ思ったんだけど、」
「はい、」
声をかけるとゆっくりとアルペジオを弾きながら彼女は返事をする。一音ずつ低い音から高い音へ。なんだか、徐々に早くなっていくオレの心臓の音みたいだと密かに思った。言葉を選びながら、もう一度「あのさ、」と声を上げる。
「ちゃんとこのままお別れになるのはなんかちょっと、嫌だなって、」
「え、……ん?」
遠回りな言い方をしてしまったからか、ギターを弾く手を止めて、彼女は首を傾げる。何を言われたかよく分かっていない様子だ。その様子がなんだか可愛くて、思わず笑い声を漏らしてしまう。だけど、その笑い声だけで誤魔化してしまいたくはないから、宝石のような色をしたその目を真っ直ぐ見て、出来る限り真剣な表情をした。
「……はっきり言わないと分かんないか、……ちゃん、オレと付き合わない?」
外はよく晴れている。白い肌を一気に耳まで赤くして目を潤ませた少女は、ゆっくりと、でも深々と頷いた。目の前がパッと明るくなる。輝石の国の夏はいつだって青い空と光る太陽が眩しいけれど、きっと今年以上に輝いて見える夏は二度とない。