失敗した、とケイトは深々ため息をついて頭を抱えた。デートスポットとしても人気な写真映えする庭園の薔薇でできたアーチの下で、夕陽です空がオレンジ色に染まる時間帯に、完璧なプロポーズをするつもりだった。……まさか他人のプロポーズフラッシュモブがすぐ側で始まってしまうなんて想像できるわけがない。カルガモが泳ぐ池のそばのベンチに腰掛けて、「凄かったね、さっきのプロポーズ」とクスクス笑う彼女は可愛らしいが、それでこの失敗が消えるわけもない。ポケットに入れたままの指輪を取り出すタイミングは完全に見失ってしまった。
「ケイトくん、何か疲れた顔してる?」
落ち込みが表情に出ていたのだろうか、はケイトの顔を覗き込んでそう聞いてくる。「大丈夫? お水飲みますか?」と鞄からボトルを取り出す彼女は、学生の頃から敬語で喋る癖が未だに抜けない。最近はかなりフランクな喋り方になっているが、時折さっきのようにぽろりと丁寧な口調になる。少し前までは「ちょっと他人行儀っぽいから敬語はやめようよ〜」と言っていたけれど、今となってはなんだかそんなところまで彼女の好きな部分になってきている。やっぱりこの子と結婚したいなあ、とぼんやり思いながらボトルを受け取ると、目の前の女の子は「無理しないで」と眉を下げて笑う。
「うん、結婚しよ」
「えっ、」
「あっ……、えっ!?」
慌てて己の口を塞ぐが飛び出てきた言葉を撤回する術はない。
「ご、ごめん! まって、今のは忘れて! ちゃんと、ちゃんとしたやつするから!」
「えっ!? あの、ちゃんとしたやつって、さっきのフラッシュモブみたいな?」
「いや、そうじゃなくて! それもありなんだけど! あーーー、もう、」
額に手を当てて天を仰ぎ見ると、隣に居た彼女がきゅっとオレの手を握ってくる。
「……あのね、ケイトくん、えっと、私は、今言ってもらったみたいなので、十分、です」
慣れないことを言って照れたのだろうか、それともさっきのフラッシュモブみたいにオレが賑やかに魔法とか使ってプロポーズする様子を想像してしまったのだろうか、恥ずかしがり屋の彼女は俯いて真っ赤になってしまっている。
「……えっ、今のでいいの?」
「うん、」
耳まで真っ赤になっている彼女はこちらとは目を合わせてくれないが、たしかに肯定の言葉を紡ぎ、しっかりと頷いた。
これは、もしかして、今日、いま、この瞬間、伝えておくべきなんじゃないだろうか。
目の前の池は夕陽に照らされてキラキラと光っている。ゴクリと生唾を飲んだオレは彼女の手を握ったまま、反対の手をポケットに伸ばして、指輪の箱をそっと握りしめた。