主が執務室の机に古いラヂオというものを設置した。……古いとは言っても一千年以上の時を生きる小狐丸たち刀剣男士にとっては随分と新しいものであるが。黒く小さな箱からは掠れたような電子音に混じって遠くにいる者の声や音楽が聞こえてくる。
「テレビだと、どうしても画面が気になってしまうでしょう?これなら声だけだし、小さな音量で流していると書き仕事に集中できるんです」
そう言って笑う彼女は実に愛らしいが、執務中に耳にしているのが己の声ではない、というのは気にくわない。胸の奥がモヤモヤとする。嫉妬を隠すのは得意ではない。眉間にしわを寄せつつ、彼女が席を外している間にその黒い箱を睨みつけていると、つい先日顕現された刀剣男士・南海太郎長尊が「おや、」と部屋を覗き、声をかけてきた。
「彼女も居ないのに一人でこんな所に居るとは、何か困り事かな、小狐丸」
「……何の用じゃ南海太郎朝尊」
「はは、長いだろうから『朝尊』とでも呼んでくれ。……ところで、ふむふむ、ほうほう、これが主が話していたラヂオとやらか」
そう言うと、誰の許可も取らずに黒い箱を手を取りひっくり返したりつまみをねじってみたりしている。壊してしまわないかと少しはらはらする。憎き機械ではあるが、壊してしまって彼女に悲しげな顔をさせるのは本意ではないのだ。
「……朝尊、一体何がしたい」
「いやなに、学者の知識が役に立つのでは、と思ったものでね。……少しこれを借りるよ」
止める間もなく、懐から螺子回しを取り出し畳に腰を下ろした怪しげな学者は、あろうことか箱の裏の蓋を開けて細かな部品を取り外し始めた。
「!?何をしている朝尊、それはぬしさまの……!」
「大丈夫、壊しはしないよ。……これをこうして、こうだ」
器用な学者はあっという間に幾つかの線を繋いで、ラヂオを改造してしまった。そして「これに向かって、喋ってごらん」と戦の時に使用する無線端末を差し出す。
「喋る……?」
「ああ、何でも構わない。なんなら今の僕たちの会話も録音されているから、これを聞いてみようか。……ほら、このボタンを押して」
訝しみながらも、彼の言う通りに端末を操作すると、なんとも不思議なことに、黒い箱から二人の声が流れ始めた。
「ラヂオに彼女を取られて、不服だったんだろう?これならば、執務中いくらでも君の声を聞いてくれるんじゃないかな」
黒い箱を撫でて朝尊は笑う。なんとお節介な刀なのだろう。「余計なお世話じゃ」と言う呟きは、聞こえないふりをされた。

「ぬしさま、」
一人自室に戻り、こっそりと囁くように端末に向かって話しかける。顔を真っ赤にした彼女が慌てて襖を開くのは、もう少しだけ先のこと。