好きとは言えない

小狐丸は好きだと言えないのではないか、と審神者は密かに思う。
好きという言葉を知らないわけではない、油揚げが好きだ、舞うのが好きだ、それは口にすることができる。ただ、どうしても『ぬしさまが好き』だとは言い出せないようなのだこの狐は。少なくとも、そうではないかと彼女が思い、気にし始めてからは、一度も『ぬしさま』と『好き』を繋げて紡いだことはない。

好かれている自身は、ある。自意識過剰だと言われるかもしれないが、小狐丸以上に好意が透けて見える人や刀剣男士を、彼女は見たことがない。「小狐丸ちゃん、好きですよ、」と伝えれば、「私もです、ぬしさま」と応えてくれる。嫌われているというわけでは、ないのだ。やはり、神様として過ごしてきた時間が長いから、人の子に対しての好意を上手く消化できないのだろうか。
だから、好きなものを教える、と彼に言われた時は正直少し驚いた。今日こそ、好きが聞けるのだろうか、と少し期待した。聞けなくても、構わないけれど、一度だけ聞きたいと思った。
それでも彼が口にしたのは、遠回しの好意。

「お慕いしております、ぬしさま」
ああやっぱり、好きと私を繋げてはくれない。
「困った人ですね、小狐丸ちゃんは」

眉を下げて笑うと、小狐丸は不思議そうに首を傾げた。
けれど、それでもいい。

「わたしは、小狐丸ちゃんが一番好きですよ」