ぬくみの淵で見る蛍

審神者の職務は、世間一般の認識よりもずっと重労働で、丸一日体力仕事になることも多い。ふしみはいたって健康だし、一般的な女性程度よりも少しは体力もあるつもりだ。だがそれでも、縁側に腰掛けると、そこに縫い付けられてしまったかのように立ち上がれなくなってしまう時やまるで足から根が生えてしまったかのようになる日が有る。刀剣男士達は戦闘でいくら身体を動かそうとも、疲れてしまうことは滅多に無いのに。彼らに比べて、体力の無い自分の身体を恨めしく思うこともある。本丸に居れば誰もが皆ふしみのことを助け・支えてくれるが、それでも、だ。

一日が終わり、夜に染まった庭を見ながら、ふしみは縁側で少し息を吐く。今日の出陣はいつも以上に敵の数も多く、その分軽いものから深いものまで傷を負った刀剣男士も多かったように思う。そのような彼等の傷を治すためには、審神者自身の霊力は勿論、体力も大いに必要になってくる。傷を負った者たちを順番に直しているうちにすっかり体力を使い果たしてしまった。
このまま、縁側で眠り込んでしまいたいが、夏の前とはいえ朝までここに居てはきっと風邪をひいてしまうだろう。けれども、ここから立ち上がりたくもない。調度良い頃合いで、ふわふわと蛍が庭を舞い始めた。これではますますここを立ち去ることができなくなる。
そうしてぐずぐずと座ったままでいると、傍を通りかかった近侍の狐が「おや、ぬしさま、」と声をかけてきた。

「そのような薄いお着物ですとお体が冷えますよ。」
「…分かっているのですが、身体が動かなくて…、」
「ほう、先程の手入れのえいきようですかな?」
「そうみたい…、それに、蛍も綺麗だから…もうしばらくここに居たくて…」

ふしみががそう言うと、小狐丸は「ふむ、」と少し考えるような素振りをしつつ、縁側に腰掛ける。と、「では、こうしましょう、」と言ってふしみの後ろ頭に手を伸ばし、額に口づけて来た。
小狐丸の腕が腰にまわされ、ぐいと引き寄せられる。驚いた顔をするふしみを見て、狐は目を細め笑う。ぴったりと隙間なく身体がふれ合い、徐々に体温が高くなる。

「こうすれば私がぬしさまを抱き上げて直ぐに動くこともできますし、身体が冷えることもないでしょう。それにほら、この方が蛍も良く見えます。」

抱き寄せられたからではなく、徐々に蛍丸の数が増えてきたから、良く見えるだけなのだということはわかっている。が、あえてふしみは小狐丸を否定することはしなかった。
重なった部分から、彼の心臓の鼓動が伝わってくる。己の心臓がいつもより少し早く動いているのも、彼には伝わってしまっているのだろうか。