刀剣男士の敵を切る以外の能力は数多くある。例えば、石切丸の悪霊を払う力であったり、今剣の高く飛ぶ能力であったり、形は様々だ。この世に身を降ろしたその時から使えるものや、修行を積んで使えるようになるもの、鍛刀されて暫くしてから自然に使えるようになるものまで様々だ。
そんな中、小狐丸には特別な能力は備わってい無かったが、小狐丸自身は主を一番側で確実に守る事ができる刃があればそれで良いと、そう思っていた。
が、ここへきて小狐丸にも特別な能力が備わった。それが良いことか悪いことか、まだ戦場に出ていないからどちらとも言えないが、これからしばらく慣れるまでに時間を要するであろうことは確実だ。
主に手合わせの回数を増やしてもらわねば、と小狐丸は思案する。
考え事をしながらも辿り着いた自室の灯を付けようと、小狐丸は暗い部屋の照明具の紐を引いた。
…が、力を込めたわけではないのに、照明具から下がる紐はぷちりと切れてしまった。糸が劣化でもろくなってしまっていたのだろうか。…それとも、
「私の力が強まったせいか、」
小狐丸の呟きは誰もいない暗い部屋に吸い込まれ消える。
人の身体は難儀な物だ。力がなくては生きることができないが、力がありすぎても持て余してしまう。
小狐丸が切れた紐を片手に俯いていると、部屋の外から「小狐丸ちゃん、」と名前を呼ばれた。主の声だ。
戸を開くと心配そうな顔をした少女がこちらを覗き込んでおり、思わず目尻が下がる。
「小狐丸ちゃん、大丈夫ですか?明かりもつけずに…」
「ご心配なさらなくとも、少し考え事をしておりました故、灯の紐を強く引きすぎてしまっただけですよ。」
「ですが…さっきから小狐丸ちゃんがいつもと違う気がして…。」
そう言って心配そうにこちらを見る彼女の察しの良さに驚く。「大丈夫ですよ、」と発した声がいつも通りに出せていたかどうか、小狐丸は分からない。
「大丈夫ですよ、ぬしさま。慣れぬ特付きの身に少し疲れたようです。今夜は早めに床につきます故…、」
「でも…やっぱり小狐丸ちゃん、他にも何か…」
「いえ、ぬしさまが案ずる何もありませんよ。」
ここで正直に話しても良かった。新たに心を読む力を授かったのだと、伝えても良かった。
だが、口にしてしまうのが怖かった。彼女に心を読まれるのを嫌がられるのが怖かった。触れるのを躊躇されるのが怖かった。
小狐丸がここで言わずとも、いずれ彼女にも分かることだということはもちろんわかっている。が、期日の直前まで、彼女には伝えずにおきたかった。それまでにこの力の制御ができるようになれば、ためらいなく彼女に触れることができる。そうすれば御の字だ。
力がこの身に馴染むまで、この能力のことは黙っておこう。触れることができなくとも、側に居ることができるのであれば、それでいい。
まだ、今じゃない。
彼女を安心させるよう、狐は優しく目を細める。
が、主の眉は不安げに下がったままで、小狐丸は心の中で唇を噛む。大事な彼女にこのような顔をさせたいわけでは無いのに。