小狐丸が主の部屋を出ると、小さなキツネが外で待ち構えていた。「小狐丸様、」と己の名を呼ぶ管狐・こんのすけの表情は赤い隈取のせいでよくわからない。
「なんの用じゃ」
「小狐丸の体現された能力についておはなししようかと、」
面倒事であれば適当に話を合わせて立ち去るつもりだったが、「ご自身の身体に起きた変化について知りたくはありませんか」と管狐は尻尾を揺するから、無下に追い払うことはできなくなる。
「手短に話さぬようなら斬るぞ。」
「…では簡潔に申し上げましょう。能力値の上昇の割合や過去のデータから推測すると、小狐丸様が体現された力は『心読み』の能力でしょう。触れたヒトの心がわかる、戦闘において相手が考えていることがわかればこれほど有利なことはありません。」
「心読み…」
小狐丸の呟きに応えるように、管狐は頷く。
「ごく稀に、刀剣男士の中でこのような能力を宿すものもいるようです。」
「では、あれはやはり、ぬしさまの…」
「ああ、先ほどはやはり審神者様の心を読んでしまわれたのですね、心読みを体現した刀剣男士は主や仲間の心を不用意に読んでしまい苦しむことが多々あるのです。…練度を上げれば読みたいときだけ読めるようになるのですが…。」
「…盗み聞きしておったのか…嫌なキツネじゃ。」
「いえいえ、盗み聞きなどはいたしませんよ。ただ様子を伺っていただけでございます。」
それに嫌なキツネはあなたもでしょう、という言葉は聞こえなかったふりをする。触れた時に頭に響いた主の声、おそらく主自身は心を読まれたことに気づいていない、が、彼女の知らぬうちに心を読んでしまったことを彼女に告げられなかった、いや、告げる気すらなかった。隠し事をする嫌なキツネである自覚は十二分にある。
「…治るのか?この妙な能力は、」
「治る、治らないではありませんよ。ご自身がさずかった能力なのですから、制御して、扱えるようにならないと、」
制御して、扱えるように。簡単にこんのすけはそう言うが、それは案外難しいことだと小狐丸は知っている。自分の持つ腕力で主を傷つけることなく彼女に触れることができるようになるまで、暫くの時を要した。この能力を制御できるようになるまでには、一体どれほどの時がかかるのだろう。
難しい顔をする小狐丸を見て、管狐はふるりと尻尾を振り「その前に、」と続けた。
「制御できるようになるよりも前に、決めていただかなければならないことがあります。」
「私が、決めること?」
「ええ。小狐丸様のこの新たな能力について、どのように審神者様に伝えるかについて、です。小狐丸様ご自身が審神者様に伝えるか、我々から審神者様へ通達するか、どちらでも構いません、ただ、通常は刀剣男士がご自身で審神者様へお伝えになられます。」
「ですが、小狐丸様の能力は少々特殊なものですから、審神者様へお伝えし辛いという場合もあるでしょう。その場合は、政府からの文書で審神者様へ通達が届きます。審神者様へ文書が届くまで、通常でしたら半月ほど、でしょうか。」
暫く小狐丸は何も言えなかった。頭の中でぐるぐると渦巻いている。こんのすけの言う通り、そのうち審神者に文書で通達が届くのであれば、この能力のことをそのまま黙っていることは簡単だ。だが、主を信頼していないように思われてしまうのでは無いだろうか。大きな狐は思案する。
小狐丸が眉を顰める様子を一瞥し、こんのすけは「では私はこれで、」と立ち去っていく。
人の身は一筋縄ではいかない。想像していたよりもずっと多くのことを考えているしその一つ一つがとても複雑だ。あの管狐のように獣の姿でこの場所へ顕現されていれば、もう少し物事を単純に考えることもできたのだろうか。