小狐丸は、人をだましたり本心を隠したりするのは上手いほうだと自負している。なんといっても『狐』と名の付く刀だ。化かすのが得意なその獣のように、自分はそのような性質なのだと思っていた。

主は出陣のときを除けばなにをするときも大抵は楽しそうにしている。とくに花を育てるのが好きなようで、花の種を植えたり剪定したりしているときは大層嬉しそうな顔をしている。そんな風に主が花の世話をする様子をを縁側からぼんやりとみていた。と、そこへ大きい影と小さい影。岩融と今剣だ。
「おお、馬当番は終わったのか。」
「つい今しがたな。なあ、今剣。」
「はい、うまのせわはとくいなんですよ!」
「して、小狐丸は何をしておったのだ?」
今日は内番ではないだろう?と問われ「私は…」と言葉を濁らせながら庭を見ると、岩融は「ああ、」と納得したように頷いた。そんな小狐丸を見て何が面白かったのか今剣はふふふ、と楽しそうに笑う。
「こぎつねまるは、あるじさまがだいすきですね」
「は?何ゆえそのようなことを思ったんじゃ。」
「だって、いつもあるじさまがはなのせわをしているのを、ここからじっとみています。」
「そんなこと、」と否定しようとしたが今剣は「このほんまるにいるひとは、みんなわかっていますよ。こぎつねまるがあるじさまをすきなこと。」と言って自慢気な顔をした。
「"どうして気づいたのだ?"という顔をしているな。お前の表情や視線の先を見ていればすぐに分かる。」
「……そんなにも顔に出ていたとは…」
「ばればれでしたよ!」
頭を抱えることしかできない。これまで密かに、悟られないように、主を見てきたつもりだったのに。
小狐丸は、人をだましたり本心を隠したりするのは上手いほうだと自負していた。主への特別な感情は他には知られていない想いのつもりだった。それも全部自分の思い込みだったようで、思わず自嘲の笑みがこぼれる。
「このことはぬしさまには…」
秘密にしておいてはくれまいか
「とうぜんです。」
「なあに、そこまで心配する必要はないさ。安心しろ。たぶん主は気づいていない。…たぶんな。」
そんな二人の反応に小狐丸は平常心を装いつつもほっと胸をなでおろす。
たとえいつかすべて心をあばかれてしまう日が来るのだとしても、今はもう少しだけ、愛しく小さな主に狐の幻術にかかっていてほしい、そうやってこの気持ちを隠しているつもりでいたい、とそう思った。