たとえば君がいない日の夜 #4

小狐丸が刀の姿に戻ってから一週間がたとうとしていた。その間、はどんな時でも肌身離さず『小狐丸』を持ち歩いていた。
出かける時も食事の時も夜寝る時も…風呂の脱衣所まで持ち込んだときは流石に石切丸に怒られたが。
「おはようございます、小狐丸ちゃん」と人の姿の彼にしていたのと同じように声をかけ、そっと鞘の上から刀身を撫でる。傍から見たら馬鹿みたいなことをしているのはわかっていたがそうせずにはいられなかった。

「そうまでして、狐が必要なのか?」
「三日月おじいちゃん、」

ここ数日毎日しているように『小狐丸』の手入れをしていると、本丸に居る刀剣のうちのひとり、三日月宗近が声をかけてきた。
本人が「俺はじじいだ」というためも彼のことを"おじいちゃん"と呼んではいるが、実際の外見は若々しくとても美しい。そして、の本丸の刀たちの中でも一際強い刀だった。

「ここには、俺やほかの刀剣もいる。どうしても、狐が必要というわけでははないだろう?」

確かに、三日月宗近の言うことはもっともだ。彼をはじめ、小狐丸よりももっと強く、扱いやすい刀はたくさん居る。

それなのになぜ、小狐丸でなければならないのか…その答えは分からない。だけどそれでも、

「……それでも私は、小狐丸ちゃんがいいんです。」

そう、そんなものは理屈ではないのだ。小狐丸のそばに居たい・そばに居てほしい、だから小狐丸でなくてはならない。理論立てて説明することはできないが、単純明快なことだった。
真剣な顔でがそういうと、三日月宗近は「そうか、」と穏やかな顔になる。

「そうか、主は小狐丸が好きなのだなあ。」
「はい。」

力強く頷き、続けて「三日月おじいちゃんも好きですよ」というと、三日月宗近はの頭を撫で「あの狐にはもったいないほどの良い主だ。」と笑う。

良い主になるようにいつもそばに居てくれているのは彼らのほうなのに。この本丸は優しい刀ばかりだ。

その夜はとても静かな夜だった。そんな日は、いろいろなことを考えてしまう。
小狐丸のこと、石切丸や三日月宗近に言われたこと、他にもたくさん。

上に伺いを立てたときはしばらくすればもとに戻るといわれたが、もし、小狐丸が元に戻らなかったらどうしよう。
焦ってもなにもかわらないということはわかってはいるが、ぐるぐると思い悩んでしまう。

あの時の小狐丸は少し怖かった。
思わず発した「嫌い」という言葉で彼を悲しませてしまったのかもしれない。もし、元に戻ったとして、以前の通り小狐丸と接することはできるのだろうか。

は誰にも言えない恐怖と、を押し殺すため、そばに居る彼にそっと触れた。

次の朝、鳥が鳴く音での意識は浮上した。目を閉じたまま、そこにある刀剣を手さぐりで手繰り寄せようとすると、いつもと違う感触のものに手が触れる。

おそるおそる目を開けると、ふわふわした髪の毛が目に飛び込んできた。

「おはようございます、ぬしさま。」

白い毛の狐は嬉しそうに笑う。

怖がる必要なんか、どこにもなかったみたいだ。喜びと驚きと胸の高鳴りがごちゃまぜになって、声もなく彼の胸に顔をうずめて泣くことしかできなかった。