石切丸は静かに小狐丸の部屋から出てきた主の顔を見て彼女が手にもつ刀が『小狐丸』であることを悟った。途方に暮れた顔をした彼女は、「石切丸さんどうしよう」と目に涙を溜め、すらりとした刀身の剣を掲げた。

石切丸が、ぐずぐずと鼻をすすりながら『小狐丸』を抱きかかえる主と共に上に伺いを立てると、確かに小狐丸は確かに刀の姿に戻ってしまってはいるが、しばらくの間主が肌身離さず『小狐丸』を持ち歩けば人の姿に戻るだろう、と通達を受けた。
ほっと胸をなでおろしたものの、主が落ち込んでいることに変わりはないようで、もともと小さな身体が心なしかいつもよりもさらに小さく見える。
「主が悪く思う必要はないさ。」と声をかけると彼女は「そうでしょうか…?」と消え入りそうな声でつぶやいた。
「私が怒って小狐丸ちゃんとお話ししなかったから…、」
「それは主を怒らせるようなことをした小狐丸にも原因があるだろう?」
こんなにも主に想われている狐に少し妬ましさも感じるが、主がこのような寂しそうな顔ばかりしていては石切丸も心が晴れない。
「主がいい子で待っていたら、きっとすぐに戻ってくるよ。」
頭をなでると少しだけ穏やかな表情になった主を見て、石切丸は心の中でそっとため息をつく。まったくあの狐は、何をどうしてこの主を怒らせたのだろう。

夜も更けて、本丸はひっそりと静まり返っている。石切丸が祈祷を終え、そっと主の部屋の様子をうかがうと、彼女は『小狐丸』を抱えたまますやすやと眠っていた。すこしはだけててしまっている布団を丁寧にかけなおし彼女の顔を見ると、頬に涙の跡が見える。どうやらまた一人でしくしくと泣いて、そのまま疲れて眠ってしまったらしい。
「そこにいるのだろう小狐丸。」
小声で主が抱える刀剣の名を呼ぶが、刀は動かない。だが、かすかに狐が返事をしたような気がする。彼が聞いているのかはわからないが、石切丸は主を起こさないように密かな声で続ける。
「君が戻ってきたら、そうだな、少し"厄落とし"をしてやろう。…もちろん、主が泣かない程度にね。」
このように石切丸らが彼女が泣かないように立ち回るから、小狐丸にとって主の涙は希覯なのだろう。
あの子が泣くのは狐が居ない時だけだ。