三日月宗近や石切丸は幼い主であるのことを「小さくて可愛らしい」という。だが、小狐丸は可愛らしいのは当然として彼女のことを艶やかで美しいと思う。
もちろん主はそのような言葉が似合うような年齢でないことはわかっているのだが、年の割に聡明な主にこれほど似合う言葉は無いと思っていた。
本丸の庭の隅には小さな畑がある。普段は刀剣たちが畑を耕すところから収穫するところまで管理しているのだが、その日はが自ら鋏や円匙を手に作業を行っていた。彼女が絹さやをの弦をぱちんぱちんと切り、鼻歌を歌いながら籠に入れる姿を小狐丸はぼんやりと幸せな気持ちで眺める。
作務衣を着て髪の毛を高い位置でまとめ上げた普段とは少し違う主の姿を見て、他の者がやりたいと言い出す前に、自分から申し出てよかったと心の底から思った。
「小狐丸ちゃん、」と名を呼ばれ返事をすると、子どもらしいきらきらとした顔で「お手伝いしてくれませんか?」と問われた。もちろん、ぬしさまのためならと頷くとはたいそう嬉しそうな顔をした。
「今日はね、木を植えたいんです。」
「ほう、木を。」
「桃と、それから桜の木を。」
苗木も頂いてきたんです、と主はにこにこと納屋のそばにある大きな袋を示す。そのような顔されると小狐丸に断れるはずもない。
こんな重労働になるなら岩融あたりに任せればよかった、という気持ちを、主の楽しそうな顔を見て必死で振り払った。
木を植えるためには、思ったよりも深く土を掘る必要があったため、随分と時間がかかってしまった。

小狐丸が汗を流し苗木と格闘する傍ら、主も小さな円匙で土を耕していたので、彼女も首筋に少し汗をかき頬が紅色に染まっている。そんな彼女に「ありがとう小狐丸ちゃん、」と微笑まれると、疲労などすぐに吹き飛んでしまう。狐は単純な生き物だ。
満足そうに植えた木を見る彼女の、いつもは黒く長い髪の毛に隠されているほんのり色づいた白い首筋をするりと撫でる。はびくりと体を震わせ、「な、なんですか?」と驚いたような顔をしてこちらを振り返った。
「いえ、ぬしさまがあまりにも綺麗だったものですから」
「変な小狐丸ちゃん。」
主はいつもそうだ。どんなに綺麗だ・美しいとほめても、こちらの下心を分かっているのかいないのか、冗談を言った時のようにころころと笑い流されてしまう。そのようなところも愛らしいのであるが、幼いながらに手ごわい相手だとため息交じりに笑った。
「そろそろ戻りましょうか」と背を屈め、両手を広げると、彼女の香りがふわりと鼻をかすめ、己の首に腕を回された。彼女のうなじが視界にちらりと入って来る。その白い線に軽く牙を立ててしまおうかとも思ったが、それはこの植えた木が背丈より大きくなるまで大事にとっておこうと、そのころは今よりもより一層美しくなるであろう腕の中の幼い主の未来に思いを馳せた。