The Tempest

This winter will come.また今年も冬が来る

会社の同期が退職することになった。
 どうやら寿退社らしい。おめでたいことだ。
 せっかくだから何かしら結婚式の手助けがしたいと「俺でよければ準備とか手伝うから!いつでも言って!」と再三言っていたら、二次会で使うスライドショー作りを任されてしまった。
 これは困った。何しろ大抵のことはそれなりにきちんとこなすことができると自負している俺が唯一苦手とするジャンルの仕事だからだ。
 パソコンは苦手だ。ようやくワープロソフトや表計算ソフトの使い方は覚えたものの、動画なんて作ったことないし、どのように作るのかさえ検討もつかない。その上、スライドで使う写真の撮影と選定まで頼まれてしまって、どうしようと頭を抱える。なにも考えずにホイホイ引き受けてしまう自分の性格をこのときは少し恨んだ。

「というわけでさん助けて!」
「えっ!?……ええ!?!」

そんな俺が泣きついて頭を下げたのは、隣の部署で事務をやってるさん。大学の頃、俺専属のパソコンの先生みたいなことをやってくれていたさんは、戸惑ったような表情をしながらも、特段嫌がることもなく「いいよ」と頷いてくれた。
 思えば、さんとは中学の頃から何かと接点があった、所謂腐れ縁というやつだ。でも、彼女本人から結婚を考えている話とか、ましてや恋人の話なんかも聞いたことが無いから、そんな彼女と結婚式のハッピーな空気にまみれたスライドを作るのはどこか新鮮で、不思議な気分だった。

結婚式のスライドは会社のパソコンや機材を使って作ることになった。そこまでハイスペックなマシンを置いているわけではないが、俺の家のおんぼろノートパソコンなんかよりよっぽど良い。しかも、会議用のスライド投射機やスクリーンなど設備も充実しているから、完成したらそのまま試写会までできる。上司に掛け合えば二つ返事で許可が降りたから、意気揚々と夜食のカップラーメンを買いにコンビニに走った。
 幸いなことにかなりのホワイト企業に就職した俺たちは、タイムカードに記入した後再び自席のパソコンの電源を入れてスライドショーを作ることなんてなかったから、なんだか悪いことをしてるみたいで少しわくわくする。中学の頃、こっそり夜中の学校に忍び込んで肝試しした時と似たような気分。……そんな気分になるのも、さんがいるからだろうか。

俺がそんなことを考えながら夜の事務所をキョロキョロ見渡している間に、早速さんはパソコンを開いて写真の整理をし始めた。勿論、結婚式のスライドショーで使うものだ。

「家でやるよりも会社のパソコンで作業する方が捗るね」

そう言って笑うさんは、新郎新婦から預かった写真に加えて、さん自身が持っていたデータも合わせて持ってきてくれたらしい。本人は「預かったのは兎も角、私のは中学生の頃から整理してないから恥ずかしい」と頬を染めたが、そんなのきちんととっておいてこういう時にまとめて持ってくることができるだけ大したものだ。前々から思っていたけど、やっぱりさんにはこういう資料を管理したりまとめたりするのすごくうまいと思う。
 それにしても、さんの昔の写真データの集合写真を見ると大抵俺もいるから笑ってしまう。当然社会人になってからの写真にも俺がちらほら紛れ込んでいるし、新郎新婦のデータにもいくつか俺たちが居る写真もあるから、もしかしたら新郎新婦のツーショット写真より俺とさんが一緒に写ってる集合写真の方が多いかもしれない。

「俺の写真多いからなんのためのスライドかわけわかんなくなるな、」
「ふふ、そうだね、」

そういうとさんは「腐れ縁、だもんね」とくすくす笑った。腐れ縁ってあんまり良い字面の言葉ではないから、そのように言い始めてしまったのは少し失敗だったかもしれないなあと思う。
 とはいえ、さんとはお互い良い関係を築けていると俺自身は思っているから、腐るとは言ってもチーズとか納豆とかの美味しく発酵したやつだと思いたい……と勝手に考えている。

写真を見返じっくりしつ思い出に浸るそんな中、大学の文化祭の時にゼミで集まって撮った写真を見て、ふとその時の記憶が蘇る。大学の文化祭の後、夕焼け空を見ながらコピー機を間に挟み話した。授業のこと、卒論のこと、卒業後の進路のこと、他にもたくさん。彼女のその時の声色まで、写真を見れば鮮明に思い出せる。それなのに一言だけ、あの時彼女が俺にむかってかけた言葉が、コピー機の音に阻まれてどうしても思い出せない。

「……ねえさん、この写真の後さ、二人で何話したか、覚えてる?」

写真をパソコンの画面上で拡大したり縮小したりしながら、彼女に声をかける。
 すると、それまでパソコンの画面を睨んで険しい表情をしていた彼女は、顔を上げて、いつになく優しく穏やかに、ニッコリと頬を緩めた。

「……覚えてるよ、菊丸くんが好きだもん」

一瞬、時が止まる。聞き間違いだろうか?いや、こんなにはっきり発音された彼女の言葉を、聞き間違えるわけがない。……それでも、好きだなんてありふれた言葉だ。恐らく、彼女自身にきっとそのような意図は無いと思うけれど、臆することなく、真っ直ぐに、に言葉を紡ぐその表情に、少しどきりとしてしまったことは確かだ。

The Tempest