あれからすぐに彼はテニスの日本代表合宿に行ってしまったからしばらく会うことも話すこともなかったけれど、なんとなくあの色とりどりの街で彼と過ごした一日が忘れられなくて、例のフルーツのたっぷり乗ったアイスクリームの写真を何度も眺めてしまう。何か思い出の品になりそうなものを買っておけばよかった、とか、アイスだけじゃなくて彼との写真も取っておけばよかった、とか、後から後からやっておけばよかったと思うことが色々思い浮かんでしまって、いかにあの日の自分がダメダメだったか思い知らされて落ち込んでしまう。
そんなこんなであっという間に半年が過ぎて、今に至るというわけだ。高等部に進学してきた彼と、すれ違いざまに挨拶する機会が増えた。中等部の校舎とそう広さは変わらないはずなのに、前よりもすごく『偶然会う』ことが増えている気がするから不思議だ。気のせいだとは思うけど、なんだかすれ違うたびにどんどん格好良くなっているように見えて、焦ってしまう。
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その日はどんより分厚い灰色が空を覆う曇り空で、今にも雨が降りそうなほどに辺りは薄暗かった。たまたまお弁当を持ってきておらず、普段一緒にお弁当を食べる友人たちも委員会の用事とか部活のミーティングとかで教室を離れていたから、置いてきぼりの私は財布を片手に一人で学食へ向かう。食券を購入する行列に並び、カツ丼にするかカツカレーにするかで頭を悩ませていると、背後から「あれ? 先輩?」と聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。……菊丸くんだ。
「先輩も今日学食なんだ! あ、席隣座っても良い?」
「ど、どうぞ……、」
ドギマギしながら頷くと彼は「やったあ!」と心底嬉しそうな顔をする。バス停で出会ったあの時と同じだ。なんだかカツ丼とかカツカレーとかを注文するのが恥ずかしくなってしまって、少し悩んでサラダうどんのボタンを押した。完全に彼を意識してしまっているじゃないか。あからさますぎて自分で苦笑してしまう。
食券を配膳担当のお姉さんに渡そうとして、またなにもないところで躓いてしまった。彼のいるところでこれをやらかすのは二度目だ。今回は彼がすっと腕を掴んでくれたから地面と接触する危険性は全くなかったけれど、顔から火が吹き出しそう。上級生の威厳も何もあったものではない。
小さな声で謝りながらため息をつく私を横目で見た彼は「危ないから俺が持つよ」と私のサラダうどんも受け取って席へ向かうから、ますます恥ずかしくなってしまう。「……菊丸くん、わかってる? 君よりわたしの方が一学年上なんだよ?」
「……知ってるけど?」
なに当然のことを言っているんだという顔をする彼を見て頭を抱える。そう、彼は全然なんにも悪くない。私が彼を目の前にすると先輩らしく振る舞えないだけなんだ。
グラウンドでも廊下でもテニスコートでもなんだか目が合う気がするし、気づいたらどんどん好きになってしまいそうで困ってしまう。また目が合った。ラーメンを口に運びかけていた嬉しそうに笑う。勘弁してよ、君の勝ちだよ。