Neverland

#01

 四月から高等部に進学して来た一つ歳下の後輩とやたら目が合う。中学の頃、わたしはテニス部のマネージャーで彼は選手だったから、その頃から廊下ですれ違った時に挨拶してくれたりしてたけど、中等部と高等部の校舎に分かれてしばらく会うことがなかった一年の間に少し背が伸びて筋肉がついたように見える彼は、なんだかグラウンドに居ても校舎内にいても目立ってるような気がしてつい目で追ってしまう。

 ほら、また目が合った。

 昼休み直後の授業。窓際の席の私は少し見下ろせば走り幅跳びの授業をしている一年生たちがよく見えた。軽く跳ねて準備運動しながら順番待ちをしている彼が、なんだか少しきらきらしているような気がして、息をのんでしまう。実際はきらきらなんかしていないんだけどね。遠くにいるはずなのにどこに居るのかすぐに分かってしまうから不思議だ。そうしていると、校舎の方を見上げた彼とばっちり視線が重なるのだ。もしかしたら、ただ上を見ていただけなのかも、と一瞬思ったりもするが、あれは十中八九私を見ていたと思う。……アイドルにウインクされたファンの人ってこんな気持ちなのかな。彼のスッと伸びた背中を見てつい目を細めてしまう。

 どこにいてもひときわ目立つ彼の名は、菊丸英二という。

*

 そもそも、どうしてこんなに彼が視界に入ってくるようになってしまったんだろうと記憶を手繰り寄せる。きっかけは多分半年前。

 私が高校一年生になった年の八月、青春学園中等部は全国大会で優勝をはたした。本人たちの喜びはひとしおだろうが、一年前までマネージャーをしていた私も自分のことのように嬉しかった。大会後、早朝の学校前のバス停でたまたま会った後輩に「ここでこのタイミングで会えたんだし、お祝いになんでも言うこと聞くよ!」とサムズアップして、「ほんとに!?」と目を輝かせた後輩を見て満足げに頷いた。そう、その時私は彼がそういう本当になるかどうかわからない社交辞令みたいな一言を真正面から受け止めて現実にしちゃう能力の持ち主だってことを忘れていた。

「なんでも? ほんとになんでも良いんですか!?
「え、うん、いいよ、わたしにできることならなんでも」
「じゃあ、その〜〜、付いてきて欲しいところがあって、先輩いつ空いてます?」

 こんなにすぐに予定を聞かれるとは思っていなかった私は少し面食らう。が、なんでも言うこと聞く、と言い出したのは私の方だ。戸惑いながらも「えっと、今月は日曜日なら、いつでも……」と答えると、彼は「やったあ!」と両手を上げた。

「じゃあ、来週! 十四日! 駅前に、十時で!」
「わ、わかった。ご馳走するから楽しみにしてて!」

 まさかこれだけのことでこんなに喜んでもらえるとは思わなかった。私たちの会話を聞いていたのだろうか、どこか遠くにいる秋の虫たちが楽しそうに鳴き始める。

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