その日は随分と風が強くて、アパートの鍵を開けるあの子が今にも飛ばされそうに見えたものだ。「何見てんの?」と首を傾げるに「なんでもなーい」と答えて自分の部屋であるかのように玄関に入る。
2年制の専門学校に進学したは卒業制作だか発表会だかで忙しい。「多分就職したらもっと忙しくなるんじゃないかな」と眉間に皺を寄せる彼女に対して、俺の方は大学の卒業までの猶予がまだたっぷりあるから、実にのんびりと過ごしている。だから、この子ももっと俺を頼ればいーのに、なんて思っちゃう。学校のやらなきゃいけないことは流石に手伝えないけど、ご飯くらいは作れるんだしさ。とはいえ、『助けて』と気軽に口にできない性格なんだということは長い付き合いだからよくわかってる。昔はどちらかというと俺の方が周りの人を頼りに生きていくタイプだったから、余計にというのもあると思う。
わかっているけど、冷蔵庫の中が飲み物だけだと、少々……いや、かなり心配になる。思わず「ちゃんと食べてる?」とお母さんみたいなことを聞いてしまった。
「食べてるよ」
「本当に? 昨日何食べた?」
「昨日……なんだったっけ……」
「どーせ菓子パンとかなんでしょ、」
「えーじ、お母さんみたい……」
「心配なんだよ、普通に……そうだ、これから毎日ご飯作りに来ようか?」
「え!? 毎日!?」
「今もまともに食べてなさそうだし……就職したらもっと食べる時間無くなりそうじゃん」
「いやそんな……悪いよ毎日来てもらうのは……」
「……じゃあ一緒に住む?」
自然とそう、口にしていた。は大きくめを見開いたものの、何も言わない。どう返していいのかわからなくなっているのだろう。そのうち俺の方がただただ風の音が聞こえるだけの二人きりの空間に耐えられなくなって「いつがいいかな〜」と口を開いていた。
「の卒業発表会が12月だよね? ということは……一旦それが落ち着いた後……年明け?」
「……まあ……そう、そう……ね。3月末でこの部屋も一旦契約が切れるし……」
「まじ? じゃあちょうどいいじゃん。引っ越そうよ折角だから」
もう決定事項のように話を進めると、も戸惑ってはいるものの割と乗り気ではあるみたいでホッとする。と、同時に思わず頬が緩んだ。たぶん準備の段階でも、引っ越した後も、大変なことが山ほどあるんだろうけど、今は楽しみの方が勝ってしまってる。