Naturesince.2010.07.04

HaNaBi

カーテンの隙間から差し込む日の光で目を覚ます。西日がじりじりと室内の温度を上げていく。
「あ、起きてた」
ぼんやりとした頭で起き上がると、ちょうど俺の持ち物を持ったがベッドの周りに引かれたカーテンを開けたところだった。ラケットの入っていない鞄は教科書を詰め込んでいてもなんだか薄っぺらい。ゆっくりと辺りを見渡す。白い内装と少し硬いベッド、そして消毒液の匂い。どうやら俺は保健室のベッドで眠ってしまっていたらしい。
「……さっきの……夢? どこからどこまで? というかなんで俺保健室にいるの?」
「英二、さっき急に倒れたんだよ。熱中症だって」
「……俺が?」
「他に誰がいるのよ」
「……夏休みは炎天下でテニスの試合してたのに?」
「疲れでも溜まってたんじゃない?」
「そういうもんかな、」
「そういうもんだよ、」
前後の記憶が曖昧だ。夢か現かも。夢にしてはやけにリアルだったような気もするし、現実にしては少し都合が良すぎたような気もする。ぼんやりと目の前の女の子を眺めていると、は「じゃあ、荷物ここに置いとくからね」とだけ言ってさっさと保健室から出て行ってしまいそうになる。そんな彼女を思わず「待って!」と呼び止めた。特別何か用事があったわけではないけれど、つい。呼び止められた彼女は不思議そうな顔をして振り返る。いつもの二つ結びが頭の横で揺れている。なんだかホッとすると同時に、何もないのに呼び止めてしまったことに罪悪感を覚える。そんな俺の様子に気がついたのか、が「何よ、」と怪訝そうに眉を顰めるから、思わず苦笑してしまった。
「……あのさ、、」
「うん、」
「俺、全国大会優勝したんだけど」
別に、今この話をしなきゃいけないわけじゃなかった。ただ、あの時と同じ話をすることで少しだけ夏休みに戻りたくなってしまったことだけは確かだ。「……知ってる」と小声で答えた彼女の表情は差し込む夕日で逆光になってよく見えない。
「それだけ? なんか言うことないの?」
「……おめでとう?」
「……他には?」
「……これ以上何を求めてるの……?」
「いや、なんというか……、……まあいいや、」
俺が苦笑すると、目の前の女の子は怪訝そうに眉間に皺を寄せた。なんだかいつも通りの彼女で少しホッとする。それでも、俺の返答がどこか納得いかない様子のはは少し考えるような素振りをしてから、小さく息を吐いてゆっくり口を開く。
「……試合、見てたよ、ちゃんと」
「……そうなんだ、」
「だから、勝ったことも知ってる」
「……そっか」
思っていた言葉とは少し違う気がするけれど、今はこれで十分だ。ベッドサイドに置いてあったペットボトルを手に取って、水を飲み干す。さっき倒れたとは思えないくらいどこか爽やかな気分だ。夏休みが終わったことは確かに憂鬱だけれど、この『いつも通り』を感じることができるのであれば、まあ悪くはない、そんな気も少しだけするんだ。
、」
「今度は何?」
「……ありがと、」
「……どういたしまして?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。相変わらず素直じゃないしぶっきらぼうだ。……それはまあ、俺も少しだけそうだけど。だけどもし、これから先の未来で夢の中のような素直なコイツに会えたら、俺ももうちょっとだけ上手くやれたらいいな、と密かに考えた。
空に打ち上がる花火と、水面に映る色とりどりの光が、今も鮮明に脳裏に焼き付いている。