Naturesince.2010.07.04

HaNaBi

花火が終わった後の『特別招待エリア』はなんだかんだで暗いし、人も多いし、足元には段差がたくさんあるし、隣に居るのは一応小柄な女の子だし、転ばないように手を引いたりした方が良いのかな、とか思ったけれど、が先に歩き始めちゃったからそれも叶わない。丁寧に彼女の頭の上で編み込まれた髪の毛に月の光が反射して、少しキラキラしている気がする。

 満員電車に揺られて会場を離れると、周囲は途端に静かになる。俺たちの最寄駅はあまりにもいつも通りだ。さっきまで人混みの中に居たはずなのに、なんだか不思議な気分。薄暗いホームで一息つくと、が「あっという間だったね、」とこちらを振り返って眉を下げて笑う。月をバックに立つ彼女は、なんだかいつもより優しく見えた。
「……ねえ、英二、」
名前を呼ばれる。穏やかな声だ。初めて聞く声のトーンだから、少し戸惑う。返した「何?」はぶっきらぼうになっていなかっただろうか。いつものコイツは不器用で少しつっけんどんだから、こういう風に話しかけられるとどういう声を出せば良いのかわからなくなる。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女は小さく息を吸ってゆっくり口を開く。
「……あのね、……大会優勝おめでとう」
「……知ってたんだ」
思っていた言葉とは違う言葉をかけられて、思わず面食らってしまう。……いや、別に何を言われるか予想していたわけではないけど。驚く俺を見てフフ、と小さく笑った彼女は「知ってたよ、」と呟き、目を伏せる。
「……知ってた、けど……、」
「けど?」
「……すぐ言えなくてごめん、」
「……今言ってくれたじゃん、」
「ううん、本当はもっと早く言いたかったの」
今日の彼女はやけに素直だ。「どしたの、今日なんかいつもと違うね」と顔を覗き込むと、隣の女の子は「夏だからかな、」と目を細めた。
「あとね、英二、」
そこから先は、向かいのホームを通り過ぎた電車の音でよく聞こえなかった。差し込んできた月の光がやけに眩しくて、目が眩みそうになったことだけは覚えている。