Naturesince.2010.07.04

HaNaBi

アラームの音と共に目を覚ます。ぼんやりした頭で辺りを見渡すとそこはいつも通りの自分の部屋だ。さっきまで確かに学校に居たと思うんだけど、あれは夢だったのかな。始業式で、校長先生の話が長くて、体育館が暑くて、が倒れて、そして保健室のドアを開けてからの記憶がない。首を傾げながらもキッチンを覗くと長姉が鼻歌をくちずさみながらパンケーキを焼いていた。
「……あれ、英二? あんた大会終わったからもう少し寝るって言ってなかった?」
「……いや、でも学校あるし、」
「学校? 何言ってんーまの、中学はまだ夏休みでしょ」
「……夏休み?」
混乱する俺を他所に、姉はパンケーキを皿に盛り付けてバターを乗せつけっぱなしになっているテレビでは、さわやかなニュースキャスターが「8月24日、土曜日の朝のニュースです」と原稿を読み上げ始めた。
「はちがつ、」
「……そうだけど、……もしかしてあんた寝ぼけてる?」
確かに、リビングのカレンダーも、ケータイに表示されている日付も8月のままだ。「タネはあるから自分の分は自分で焼きなさいよね、」と食卓へ皿を持って行く姉に「うん」とか「そう、」とかいうぼんやりとした返事をして、冷蔵庫の中をまじまじと見る。やはり8月末が賞味期限の牛乳なんかが入っているから、ニュースキャスターがまちがえているわけでも、姉が冗談を言っているわけではなさそうだ。
もしかして、……時間が巻き戻ってる?
いやそんなまさか。もしかして、全国大会が終わってから始業式まで過ごした数日間は全部夢だったのかな。それにしてはこの一週間の記憶がはっきりしすぎている。せっかく終わらせた夏休みの宿題だって、今から再度手をつけなければならない、絶望的だ。……それとも、今こうやってキッチンに立っている、こっちが夢? 混乱して脳みそがパンクしてしまいそうだが、とりあえず起きたばかりで空腹であることだけは確かだ。俺は小さくため息をついて、フライパンにパンケーキのタネを流し込んだ。