Naturesince.2010.07.04

HaNaBi

 9月になったとはいえまだまだ暑い日が続いている。始業式で体育館に並ぶのも嫌になる程だ。どうにかこうにか理由をつけてサボってしまおうかとも一瞬思ったけれど、俺たちテニス部は全国大会で優勝しちゃったから、部長の手塚がステージに上がって全校生徒にトロフィーやら賞状やらを披露する手筈となっている。一応それは見ておかないとなあ、と思って熱気の篭った体育館に身を置いているわけだ。が、式の中盤でその賞状の授与も終わり、今はただただ暑い中で暇を持て余すだけになってしまった。そんな中でも校長先生の話は長い。夏休みの間中この壇上で喋る内容を考えていたんじゃないかってくらい、延々と喋り続けている。あんなに喋って喉が痛くなったりしないのかな。
「あつ……、」
 そう呟いてシャツを掴んでパタパタと空気を入れる。少しはマシになったけど、暑さが和らぐわけでもない。俺はこんなに暑いのに、近くに並ぶ不二はどこか涼しそうな顔をしているから少し首を傾げてしまう。あの天才の周りは風でも吹いてんのかな。なんか試合中も風を操るみたいなことやってたし。
 そんなことを考えながら前の方へ視線を戻すと、見覚えのある二つ結びがゆらゆら揺れているのが目に入ってきた。……ゆらゆら揺れている?
「……あれ……なんかまずいやつじゃない……?」
 思わず小さく声に出してしまうと同時に、バタン、と大きな音がして二つ結びが視界から消える。
!?」
 思わず声が出た。ざわめきが広がる。俺が駆け寄る前に周りにいた女子生徒たちが心配そうに彼女を取り囲む。熱中症か何かだろうか、人が多くて少し遠い位置にいるアイツの表情は見えないから、どのような状態なのかはよくわからない。そのうち担架を持った男性教員達が駆け寄ってくる。アイツはぐったりしたままどこかへ運ばれて行き、そうして何事もなかったかのように始業式は再開される。が、俺たちのクラスは妙にふわふわした雰囲気を残したままだ。
 ようやく校長先生の長い話が終わり、体育館を退場するため待機している最中、不二に声をかけられた。
「英二、が心配?」
「……別に、」
 いや、『別に、』ってなんだよ。普通に心配なんだけど。アイツの話になると俺はどうも素直じゃない物言いをしてしまいがちだ。

 ぽつりぽつりと聞こえてきたクラスメイトの女子たちの会話によると、どうやらは保健室で寝ているらしい。居場所がわかって少しホッとする。この後様子を見に行こうかとも一瞬考えたが、そうは言っても式の後そのまま直行するのもどこか気恥ずかしい。
そんなわけだから、弁当を食べ終えてこっそり保健室の前までやってきたものの、扉の前で一瞬立ち止まってしまった。俺以外にもお見舞いに来てる人がいたら俺はどうコメントすれば良いのだろう。……まあ、『たら』『れば』を考えていても仕方がない。小さく深呼吸して、取手に手をかけて、がらりと引き戸を開ける。

 瞬間、視界が眩い光で溢れていく。真夏の太陽のような、夜の空に咲く花火のような光は、あっという間に俺の身体を飲み込んでいった。