Naturesince.2010.07.04

Short Story

夏の午後

 天気はそこまで良くはないのに暑くてたまらない。エアコンは三十度以上にならないと使用してはならない、という訳の分からないルールのため窓は全開にされているものの、外からは生温い風しか吹き込んでこない、そんな日の昼休み。有江はぐったりと机に伏してクラスメイトたちの賑やかな声を聞いていた。早くも夏バテだろうか、それとも軽い熱中症だろうか、弁当はほとんど喉を通らなくて、水ばかりのでしまう。それでも、多少は栄養を摂らないと本当に倒れてしまう、ということは分かる。購買に何か冷たいものを売っていないだろうか、ゼリーとか、野菜ジュースでも良いかもしれない。のろのろと体を起こし、財布の中身を確認する。幸い今月はまだお小遣いに余裕がある。小さくため息をつきながらゆっくり立ち上がると、既に持ってきた弁当を食べ終わった様子のクラスメイトから「あれ、有江、購買行くの?」と声をかけられた。……菊丸英二だ。

「……そうだけど、悪い?」

「まじ? じゃー俺も一緒に行こ〜! 不二の見てたら俺もジュース飲みたくなってきたんだよね」

 そう言いながら彼は机の上に乗ったリンゴジュースのパックを示す。そうして、有江が良いとも悪いとも言わないうちに彼は「じゃー、行ってくるね不二」と手を振って財布を手に持って立ち上がってしまった。展開が早すぎてついていけない。

「ちょ、ちょっとまって英二、」

「何?」

「……なんでもない」

 ついてこないでと邪険にすることも、一緒に来てくれて嬉しいと喜ぶことも、今の有江には選択できない。ただただ上がっていく体温に身を任せるしかなくて、頭を抱えてしまう。ああもういっそ、ここで倒れてしまうことができたら楽なのに、なんて、密かに思いながら。

 有江がなんだか辛そうだ、と菊丸が気が付いたのは昼休みに入ってからだった。熱中症か何かだろうか。元々そこまでおしゃべりなタイプではない彼女だが、今日は一段と静かで、口数が少なくて、いつも通り数名の女子と机を囲んで弁当を食べたらすぐに自席に戻り机に伏してしまった。そんなに食べるのが速い方ではないから、たぶん持ってきた弁当にはほとんど箸をつけていないのだろう。

 彼女が立ち上がったときに声をかけてしまったのは無意識だった。本当に不二とリンゴジュースが飲みたかったわけじゃないんだけど。言い訳に使ってしまっことを許して欲しい。

 塩飴は購買にあっただろうか。見つけたら、こっそり買って、その小さな手に押し付けてやろう。