Naturesince.2010.07.04

Short Story

ポッキー

冗談半分に「ポッキーゲームする?」なんて聞いてくるのはやめてほしい。そっちはからかってるつもりかもしれないけれど、こっちは平静を保って「なんで?」「ダメ」って言うので精一杯なんだ。本当は、好きな人の顔がチョコレート菓子一本分くらいの距離まで近づいてしまう瞬間を想像してしまって、すっごく動揺している。

だから今年こそは、仕返ししてやろうって決めていた。

「ねぇ、ポッキーゲームする?」

そう言って赤い箱片手に楽しそうに笑う彼をまっすぐ見つめる。少し怖い顔をしてしまっていたかもしれない。けど、それだけ必死なんだ、今の私は。箱の中から1本、今日の『武器』をそっと抜いて、チョコレート側を彼の口に近づける。反射的にそれを咥えたのを確認して、私も反対側を唇で挟む。それから、パキッと音を立ててスティックが割れるまでは一瞬だった。けれどなんだかそれが永遠みたいに感じられて、大きく早くなっていく心臓の音をしっかり聞かれてしまいそうで手のひらにじんわりと汗が滲んだ。

「私の勝ちで良い?」

普段通りの声が出せていたかはわからない、が、彼の驚愕した表情を見ることができて、ちょっと優越感。それにしても、さっきよりもっと近づいたこともあるはずなのに、なんでこんなに手が震えるんだろう。