文化祭のステージでアイドルの曲を歌って踊ることになった。俺はこういうのどっちかというと特異な方だから、話し合いも練習も結構ノリノリで参加していた。衣装合わせもそうだ。ふわふわのついたジャケットを羽織り、白い手袋をはめて、側で他の仕事をしながら見ていたに「どう?」と聞くと「別に、いいんじゃない?」と返された。
最近わかるようになってきたんだけどこの「別に、いいんじゃない?」は全然良くない時の「別に、いいんじゃない?」だ。本当に面倒くさいなこの女の子は。俺の自惚れじゃなければ理由はなんとなく想像できる。けど、本人の口から直接聞きたくて、俯いたその表情を覗き込んでやる。
「ちゃーん、何が嫌なの?」
「なっ、嫌、なわけじゃないから、」
「嘘。そういう言い方するときは嫌なときだろ」
知ってるんだからな~ と頬を摘んでうにうにと引っ張ってやるととても柔らかく、よくのびた。「やめてよ!」と言われたって、ちゃんと言葉にするまでやめてやらないからな。
「怒らないから、教えてよ」
そう促すと少し視線を泳がせてから、俺にしか聞こえないように、ぽつりぽつりと小声で呟くように、声に出してくれる。
「……あの、ね、……その衣装が、嫌、な訳じゃないんだけど、」
「うん、」
「それ着て、沢山の人の前で歌ったり、他の子に手を振ったりするのかなって……思ったら、嫌だなって思った」
「……そっか、」
だいたい予想通りだけど、好きな女の子がそう思ってくれているのがなんだか嬉しくて、少しニヤニヤしてしまう。「笑わないでよ」と小突かれた。
もう英二は「やる」って言ってしまったのだから、今更「やめて、」なんて言えないことはわかってるし、「大丈夫だよ、」なんて根拠のない慰めが欲しいわけでもない。それでも、そのわがままを口にするだけで少し心が軽くなったのは確かだ。
私が自分勝手なわがままを口にしただけなのに、なんだか嬉しそうにしてくれている彼に、許されるなら、もう一つだけわがままを言わせて欲しい。今は、……ううん、ステージに上がったとしてもずっと、私だけの君でいて。