ホワイトデーお返しするから、と言われていたことを忘れてたわけじゃない。むしろしっかり覚えていたから、ちゃんと約束をしてたわけじゃないけど今日は会えるって思ってたから、普段は二つに結ぶだけの髪の毛を丁寧に巻いてみたりして、姉の部屋から自分では買えないような値段のアイシャドウを借りてみたりして、想像以上の寒さで着ようと思ってたワンピースが着れなくなって慌てて冬物を引っ張り出したりして、そんなこんなでバタバタしているうちに時間は過ぎて、彼から電話がかかってきていたことに気がつかなかった。着信履歴を見て血の気が引く。……怒らせてしまっただろうか。かけなおそうと画面に触れかけた時、今度こそ、とでも言うように小さな機械は着信を告げる。慌てて通話ボタンを押した私の耳に飛び込んできた「やっと出てくれた、」の声は怒ってはいなくて、むしろ少し心配の色を含んでいて、申し訳なくてちょっと泣きそうになる。