Naturesince.2010.07.04

Short Story

猫の日チャレンジ

乾の変な汁の影響での声が出なくなった。……いや、正確には人間の声が出なくなった。彼女が勧められた液体を何の疑いもなく一口飲んでそのあまりの不味さに顔をしかめた後「にゃあ!にゃあ!にゃあ!」と猫のような声を上げ直後に口をパッと押さえるまで数秒、何が起こったのか俺たちが理解するのに数秒。そして沈黙。そのうち不二が笑いを堪えきれず吹き出して、俺は不安気な表情をするこの子をどうやってフォローすべきか分からず深々ため息をついた。

という女の子はそんなによく喋るタイプというわけではないが、今日はいつも以上にだんまりだ。その様子を見ていたニコニコ顔のクラスメイトが「面白いから僕も飲んでみればよかった」と言ってきた。不二が飲んだら余計面倒なことになるからやめてほしい。「どうしてこんなことに」とでも言うように頭を抱えるこの子を責めるようなことは言いたくないけれど、つい「も~!」と頭をぐしゃぐしゃにかき回してしまう。

さあ、乾の汁は怪しいって分かってるのに何で飲んじゃうんだよ!」

は仕方ないじゃない、とでも言いたげに鳴いて首を左右に振る。

「仕方なくないよ!なんかあんまり仲良くない人から勧められたもの断っちゃうの申し訳ないって気持ちはわかるけど、そゆときちゃんと断れないと後から困るのはなんだからね!」

早口でそれだけ言うと、が『わかってるけど、』という風に眉を下げて小さく鳴いて俯く。なんだか生えてないはずの耳や尻尾がしょんぼりと下を向いてしまっているように見えて、ちょっと申し訳なくなってしまう。少し言いすぎてしまったただろうか。他人に注意したり叱ったりするのあんまり得意じゃないから、こういうときどう伝えたら良いかよく分かんなくなる。

そうやってあーだこーだとやりとりしていると、さっきから黙ってこちらの様子を見ていた不二が唐突に「あのさ、」と声をかけてきた。

「……さっきからは『にゃー』しか言ってないけど、英二は言ってることわかるの?」

「え、いや、俺は普通に、」

「普通に?」

僕は全然分からないんだけど、と目の前のクラスメイトが首を傾げるから、何だか徐々に照れ臭くなってきた。そんな俺を他所に隣の女の子は『うにゃうにゃ』と呻き声だか鳴き声だかよくわからない音を発してサッと目を逸らす。ずるいよ、俺だって『にゃあ』と鳴いて色々誤魔化してしまいたいよ。