Naturesince.2010.07.04

Short Story

Chocolate Kiss Season xxx

「これ、バレンタインだから」

 そう言ってがキラキラした包み紙で装飾されたチョコレートを突き出してきたとき、俺は正直驚いた。毎年俺の方がチョコをねだって「チョコ?渡せるわけないでしょ?」とか、「たくさんくれる人いるんだから、いいじゃない」とか言われながらも、帰り道にコンビニで買ったチョコレートを渡されるというのが常だったから、今年もそのような流れになるのかと思っていた。
だから、「何ぼーっとしてんのよ、いらないの?」と聞かれるまで、まともにリアクションをすることができなかった。珍しいこともあるものだ、と思いつつ甘い香りのそれを受け取り、「あ、ありがとう」としどろもどろになりつつも礼を言う。普段と話すときはこんな風になったりしないのに、不思議な気分だ。あまりにも珍しいものだから、普段はよく自分の中で吟味してから口に出すような、ふわっと浮かんだ疑問が口からポロリと出てきてしまう。

「……ねえ、もしかして、これ俺にだけ?」
「そんなわけないでしょ、クラスの女の子や不二くんにも渡しました」
「……なあんだ、」

期待していたわけではない。でも、決して嫌いではない……むしろ好きな部類の自分の中でちょっとトクベツな女の子からチョコを貰えたら、浮かれてしまうものなのだ。バレンタインってそういうものだ。そんな風に少し落ち込む俺に気がついたのか、はフォローするように「で、でも!」と声を上げた。

「……でも、英二のおかげで、渡せる人や交換できる人増えたなって、思ってるんだよ、去年までより、仲良くできてるなって思える人、増えてるんだよ、だから、これはそのお礼……」

がそう言いいつつごにょごにょと小声になって俯くから照れくさいのと嬉しいのとが相まって、「……めずらしーじゃん、そういうこと言うの」とからかってしまう。「うるさい!もうばか!」と叫ぶ彼女の耳は必死で隠しているつもりなようだが、真っ赤に染まってラッピング用のリボンと同じ色になってしまっている。これが今の彼女の精一杯なんだろう。不器用だけどどこか微笑ましい。

……気長に待つのも悪くない。彼女からのトクベツ扱いは来年の楽しみにとっておこう。

「そういえば、まだ余っているからテニス部の後輩とかに渡してきたら?私一人じゃ食べきれないし」
「ちょっと!何押し付けようとしてるんだよ!」

前言撤回。テニス部の奴らに渡すのはなんか悔しいから、今すぐ俺だけのトクベツがほしい!