Naturesince.2010.07.04

Short Story

このはたのもと

青春学園の体育祭はクラスごとに大きな旗を制作する伝統がある。ペンキで絵を描いた大きな白い布を開会式の時や応援合戦の時に掲げるのだ。
当然大きな仕事だからの『旗づくりリーダー』ようなものが必要になるのだが今年の3年6組はがその役目を担うことになっていた。手を上げて立候補したとか、絵がうまいからと他の生徒から推薦があったわけではなく「さん、部活も委員会もやってないんだし、いいよね。」と半ば強引に押し付けられてしまったのだ。
強引に任された仕事ではあるが、別に絵を描くことがが嫌いというわけではない。体育祭当日は運動音痴の自分では全くクラスの役に立たないことは目に見えているから、準備の段階でで少しでも仕事をして帳尻合わせをしておきたいと密かに思っていたことも確かだ。
だが、思った以上にこの仕事は骨が折れる仕事だ、ということに気付いたのは教室の机を全部避けて床に白い布を広げた時だった。にとっては、こうやって作業スペースを一人で確保することだけでも重労働だ。そのうえ、この広い布におおきく絵を描いていくとなれば、もっと体力を使うだろう。
以外のクラスメイト達は当然のことながら競技の練習や委員会の仕事などで忙しい。あまり人に頼みごとをするのが得意ではないには忙しそうにしているクラスメイト達に助っ人を頼むこともできず、大きな白い布を前に途方に暮れていた。

とにかく、何か描かないと、体育祭までに作業が終わらない。泣き出してしまいそうになりながらは鉛筆を握りしめた。

「あれ、まだ残ってたんだ。」

テニス部のジャージ姿の菊丸が教室に顔を出したのは、大まかな線画を描きおわった時だった。これから、細かい場所や広いスペースの色塗りなど体力が必要な仕事は続く。

が少し頷いてからも黙々と作業を進める様子を、菊丸は何も言わずじっと眺めている。
思えば、が旗の制作係に任命された時もかれはこんな表情をしてのことを見ていた。心配そうな、でも口出しはしづらそうな、複雑な表情だ。額に滲む汗をぬぐいながら、旗に塗る色を決めていく。ここは青、赤、緑…

旗の隅に小さく鉛筆で書きこんでいくの姿を見ていた菊丸は、不意に口を開き「ねえ、」と声をかけてきた。

「ねえ、俺、青いとこ塗りたい。、そこのペンキ取って。」

手伝うよ、と言ったらが少し遠慮してしまうのを分かっているのだろうか。菊丸は鼻歌を歌いながら刷毛を手に取り、巨大な布を塗り進めていく。そんな彼に向かっての口から出てくる言葉は「やりたいなら、やってもいいよ」という素直じゃないものだ。こういうときこそ、躊躇わずお礼が言えたらいいのに。