待っていることは嫌いじゃない。ただ寒いのが嫌いなだけだ。は手袋をつけていても氷のように冷えてしまった手に暖かい息をかける。冷え性というのは困りものだ。暖房をつけていても、手足の先はどんどん冷たくなって行ってしまう。
とくに今日は、朝から雪が降り青春学園の校庭は真っ白に染まってしまった。放課後になり、少し溶けたとはいえ、相変わらず残っている雪が発するひんやりとした空気が室内にまで流れ込んでくる。教室の中に人が大勢居る時は良いが、ひとりまたひとりとクラスメイトが帰宅し、ついに一人になってしまったそこは、寒々しいとしか言いようがない。ストーブを一人で使うのは気が引けるし、図書室に移動しようと立ちあがる。最近覚えたメッセージアプリを起動し、ぽちぽちと文字を打ちながらひんやりとした廊下を歩く。外は窓ガラスがガタガタと揺れるほどの強い風で、再び雪が降ってきそうな空の色をしていた。
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こう寒くて風が強いとテニスの練習も上手くいかない。コートの隅に積もった雪が残っているとなれば尚更だ。菊丸が「うちも氷帝みたいに室内にテニスコートできないかなー」と呟くと、不二に「そうかな、僕はこれはこれで楽しいけど。」と返された。不二のように風をも自分の武器にしてしまうような天才ならば問題ないだろうが、そこまでの余裕は今の彼には無い。
遠くに見える雪合戦をしながら帰宅する小学生たちを横目に菊丸は溜息をついた。
「せっかく雪も積もってるんだからさー、うちの部も練習の後雪合戦とかできればいいのに。」
「…いいね、それ。やろうよ、雪合戦。」
予想外の不二の反応に菊丸が目をぱちぱちさせているうちに自由すぎる天才は「部活の後なら手塚も許してくれるんじゃないかな、結構こういうこと好きだし。そうだ、雪だるまも作ろうよ、ねえ手塚、」と部長に直談判しに行ってしまった。
雪が降り始めて、気温はますます下がる。だが、自分を待っているであろう彼女に、帰り道テニスコートの隅に並べた雪だるまたちを見せる時間を考えたら少しだけうきうきした。
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凍えた手で本のページを捲るのも億劫になってきたころ、頭に少し雪を積もらせた菊丸が図書室の扉を開けた。
「おまたせっ、。」と声をかけられた時、すこし室内の温度が上がったような気がするのは気のせいだろうか。「遅かったじゃない」と拗ねたフリをすると「ごめんごめん!」と両手を合わせて申し訳なさそうにしてくる。
「まだ朝の雪が残ってたからさ、雪だるま、つくってきたんだ。」
「…ばかじゃないの、こんなに寒いのに。」
えへへ、と笑う彼の頬と鼻の頭は少し赤くなっている。おそらく、部活が終わってそのまま、コートも着ずに遊んでいたのだろう。小学生じゃないんだから、と溜息をつく。
「寒かったでしょ?風邪とかひいても知らないんだから。」
「うん、手もすごく冷たくなったし。…今はより冷たいかも!」
触ってみて、と、そっと伸ばされた彼の右手とってみる。普段は熱いくらいな菊丸の手だが、今はひんやりと冷たくなっていた。
「なんで手袋しなかったのよ。」
「だってそのまま雪にさわったら手袋ぐちゃぐちゃになるじゃん。」
「そもそも雪で遊ぶって言う発想がありえない。」
図書室の中だから小声とはいえ、いつもと同じようなやりとりをして、少しだけ体が温まった気がする。もう手を離しても良かったのだが、お互い何故かそのまま離せないでいた。
触れた手はお互い冷たかったけれど、少しずつじんわりと熱くなって、いまにも溶けるんじゃないかと思った。