One more more more

#03

 都大会のトーナメント表が発表された。昨年の結果と地区大会での優勝を考慮されシードに配置された青学だが、勝ち上がっていけば間違いなく苦戦を強いられるだろう。先の事を考えると試合をするわけではないわたしまで緊張してしまう。そんなマネージャー実質初心者に顧問の竜崎先生から言い渡された仕事は1・2年生レギュラーの個人練習の手伝いであった。どうやら先生も部長もこの下級生の三人こそが都大会、そしてその先の関東大会・全国大会を勝ち抜いていく鍵となると考えているらしい。海堂くんと越前くんは「別に必要ないっす」「一人でできますし」みたいな態度だったけれど、周りの三年生たちのアドバイスに従い桃城くんの練習をどんどん進めていると、彼らも徐々にこちらを頼るようになってきた。そうすると桃城くんもますます練習に熱が入る。なるほど、全員が全員、相当な負けず嫌いだ。

 彼らの練習に付き合っているうちに、球出しの手伝いも球拾いも少し慣れてきた。普段近くに居る部員のラケットを片手にリズミカルに配球する竜崎先生や、自分たちの練習のあと休むまもなく球拾いをしている一年生達には本当に頭が下がる思いだ。今目の前にいる一・二年レギュラーの彼らに対しても同じように、お互いに刺激をしあいながら必死にボールを追いかける姿は息を飲むほどに熱を帯びていて軽々しくすごいというのも躊躇ってしまうほどだ。……お互いのテリトリーにボールが入り込むたびに睨みあったり舌打ちをしたりするのはやめたほうが良いんじゃないかと思うけれど。思わず苦笑してしまう。

「テニス部の人たちってみんな全然違うタイプの人たちだけど、負けず嫌いなのはみんな似てるね」

 そういうと、わたしは『彼』のことなんか全く思い浮かべていなかったのに、桃城くんは「英二先輩のことっすか?」とからかうように言って目を細める。

「まってまって、誰もそうだなんて一言も言ってないじゃない!?」

「いや、めちゃくちゃ分かりやすいっすよ先輩、全部顔に書いてある」

 そう言って桃城くんが笑うと先ほどまで壁打ちをしていたはずの海堂くんも、先輩は誰を思い浮かべてるのかすぐわかる、とでも言いたげに小さく息を吐いて頷く。そばにいた越前くんも「言われてみれば」と続ける。

「確かに、先輩は思ってること顔に出過ぎだし、あの人は結構負けず嫌いっすよね」

野菜汁飲まされたし、と苦々しげに呟く越前くんは先日の5ラリー対決練習で押しつけられたまだ脳裏に焼き付いているようで、不機嫌そうに眉間にシワを寄せる。

「まーあ確かに、英二先輩のアクロバットもゴールデンペアのコンビネーションもすごいとは思うが」
「負けてらんないっすよね」
「……そうはいっても俺達は英二先輩みたいにはなれないっすから、ランキング戦で贔屓してもらうことはできないんだろーけど!」
「まってまって、贔屓とかしてないから!」
「してないかもだけど、でも英二先輩のテニスのが好きでしょ?」
「……そ、」

 冗談っぽくそう言う桃城くんにそんなことない、と否定の声を上げようとしたわたしを海堂くんが静止して首を左右に振る。

「無理して『そんなことない』とか言わなくても良いっす、真似するつもりはないしそうなりたいとも思っていない、だから俺もこいつもあの人もテニスをしている」
「……だから……とは、」

 腑に落ちない表情をしていると「つまり、」と越前くんが続けてニヤリと笑う。

「いろんな人間といろんなテニスができる方が楽しいってことっすよ」

 ずっと同じ相手だと変わりばえしないからね、と言いながら越前くんはボールを高く放り投げてサーブを打つ。壁に向かって飛んで行気跳ね返った黄色の球は、海堂くんの顔面へ向かって飛んでいく。

「わざとか?」
「別に」
「今から試合してやっても良いんだぞ」
「また負ける気っすか?」

 そう言い合ってばちばちと火花を飛ばし合う血気盛んな後輩たちに思わず苦笑してしまう。自分のことを尊敬してくれる負けず嫌いで頑固な後輩たちがいたから、彼も楽しくテニスができたんだろうなあ。そう思いながらもう一度ボールを高く放り投げる。彼らみたいにこの黄色い球の行く末を見据えることはできるだろうか。

One more more more