「菊丸先輩」
そう私は呼んでいる。桃とか、越前とかは「英二先輩」って呼ぶから、羨ましいなあ、って思う。少しだけ。だって、呼んでいいよって言われても、多分呼べない。ドキドキするんだ。姿を見るだけで、声を聞くだけで、名前を呼ぼうとするだけで。
「じゃー、もうそれ告白しちゃえばいいじゃん、英二先輩に」
「は!?無理!無理だよ!無理無理無理!!」
「先輩、ジョジョみたいになってるっス」
「それは『無駄』だよ越前!なんでわかんないかな!?そうやって簡単に言えるようなものじゃないんだよ!」
「めんどくせぇ」
「めんどくさいっすね」
帰り道のドーナツ屋さんで、この会話を何度繰り返したことだろう。桃は私が何か話し始めたらすぐに告白しろとすすめてくるようになったし、最初はドーナツを皿において話を聞いていた越前は口をもぐもぐさせながら聞くようになったし、二人とも面倒くさそうなのを隠さなくなってきた。それでも、ドーナツ1個でいつも話を聞いてくれる二人は優しい。男子テニス部の練習終わってからだと友達誰も残ってないんだよ。
「じゃあ告白が無理なら、デートとか誘ってみればいいじゃん」
「で、デート!?」
思わぬ越前の提案に、つい声が裏返ってしまった。告白する前にデート、その発想はなかった。そもそも、菊丸先輩を遊びに誘うという発想がなかった。部活の最中にその後ろ姿を見ているだけで精一杯だったから。……さすがアメリカンボーイだ。
「いいんじゃね?このまま何もせずグダグダダラダラ先輩の卒業を待つよりよっぽど良い」
「デートなら、先輩も面白そうな話してくれそうですし。目があっただの話ができただのだけじゃなくて」
「そ、そっか……そうかもしれない。……でも、デートって、どうやって誘えばいいのかな?私、菊丸先輩とまともに話したことないんだよ?」
そう、なんとも情けないことに、私は大好きな菊丸先輩とまともに話すことすらできていないのだ。先輩のことを意識する前はきちんとお話できていたのかもしれないけど……今はもう、そんな時期があったのかどうかすら忘れてしまった。
「え、じゃあ距離を縮めるところから?……先が長すぎる……、」
「仕方ねえだろ越前〜!この件に関してのはダメダメのダメだ。前も後ろもよく見えてない赤ちゃんだ」
「赤ちゃんで悪かったな!」
何を隠そう、これは私の初恋だ。誰のものでもない、私の。だから、大事にしたい。壊したくない。好きだって言えなくてもいいから、嫌われたくない。……でも、だけど、やっぱり、デートはしたい。
今の私は、百面相のような顔をしていることだろう。
「……菊丸先輩、ドーナツ好きかな」
「まあ、嫌いじゃないとは思うけど、」