幼なじみ

 不二周助という名前の私の幼なじみは、おそらく人の心がない。そう言うと誤解を生んでしまうかもしれないが、とにかく他人に一切興味がないのだ。反面、懐に入れた人間に対しては過剰なまでに構いたがるから極端な人間だなと思う。そんな彼だけど、私に対しての態度はどっちつかずだ。付かず離れずの距離間を保ち続けて早十数年。顔は綺麗で穏やかなものだから、いろんな女の子に告白されて、いろんな女の子と付き合って、いろんな女の子と別れる不二を何度も見てきた。彼女と別れて次の彼女と付き合うまで5日以上間が空いたことがない。フリーになったらすぐに違う女の子に告白されてしまうのだ。そしてそれを不二は拒まない。そんな彼の恋愛事情を心の中で勝手に『回転寿司形式』と呼んでいる。満腹になったら終わりが来る回転寿司と、終わりのないラブゲームを続ける不二を一緒にするのもどうかと思うけれど。
 そんな寿司と寿司の合間の暇を持て余した短い期間に、不二周助という男は私とお茶してくれたり買い物に誘ってくれたりするものだから、ただの幼なじみは少し優越感に浸ってしまう。本人的にはたぶんガリとかアガリとかみたいな感覚だろうし、私的にも不二は不二でありそれ以上でもそれ以下でもないんだけど。
「ほんと、罪な男よね」
 そう言って深々とため息をつくと、彼は「心外だな」と笑いながら注文したミルクティーをかき混ぜる。
「僕からフッたことは一度もないんだよ」
「へえ」
「ただ、相手が『思ってた不二くんと違うね』って言って離れていくんだ」
「毎回?」
「毎回」
 なんとなく、相手の女の子の言いたいことはわかる。そう言う男なんだ彼は。鈍感なのか確信犯なのかわからない彼に少し呆れてしまう。それでも、呆れると同時に「不思議だね」と涼やかに笑う不二を見てほっとしてしまっている自分がいるんだ。

 何度目かの不二とのティータイムだ。今回の彼女は最短記録。以前二日でさくっと別れた時は本当にそれで良いのかとニコニコ笑いながら紅茶を飲む幼なじみを前に頭を抱えたが、四時間で別れる日が来てしまうとは、いろんな意味でとんでもない男だ不二周助。
「僕はいつも通りにしているだけなんだけどね」
「うん、その『いつも通り』がダメなんだってそろそろ気付こうか」
 ありのままの僕を受け入れて欲しいんだけどな、とカップにお砂糖を入れる彼はあんまり辛そうでも悲しそうでもないから慰める言葉をかける気すら起こらなくなってしまった。
「……女の子達もよく不二のこと見てから告白すれば良いのにね」
「まったくその通りだよ」
「……私はいつか不二が誰かに殺されないか心配だよ」
 今は彼女を取っ替え引っ替えしても誰にも刺されずいきることができているけど、もしかしたらいつか遊び人のレッテルを張られてしまうかもしれないし、誰かの恨みを買うかもしれない。なんというか、それは嫌なんだ。不二周助は確かに人の心がないし、他人に一切興味がない、けれど、不誠実な男ではないはずなんだ。誤解されたくない。だから幼なじみである私は頭を悩ませてしまう。そんな私を見て不二は少し考えるそぶりをしてから、そうだ、と手を叩く。
「うーん、じゃあ僕たち二人が付き合ってみる?」
「え?」
 一瞬なにを言われたのかきちんと判断できなかった。口を開けたまま固まる私を見て不二は「そうしたら恨みを買ったり誰かに殺されたりする心配も無さそうだし」と言ってクス、と笑う。
「ちょっとまって、不二は本当にそれでいいの!?」
「だって、君となら思ってた僕と違うってことはないと思うし、僕も君のことをよく知ってる」
「そ、そうだけど……」
「それに、さ、君、僕のこと、」
「ちょっと待って周助!」
 彼が何を言おうとしているかなんとなくわかってしまって、思わず遮るように大きな声を出して立ち上がってしまった。ハッとして、ごめん、と呟いて再度椅子に座る。それでも、まだ彼の言ったことがきちんと飲み込めていない。「付き合ってみる?」その言葉を何度も何度も脳内で反芻して視線を泳がせてしまう。そんな私を見て、ふふ、と不二は楽しそうに笑った。なんとマイペースなんだろう。
「ねえ、久しぶりに名前を呼んでくれたね」