あの時のお礼

私は一度だけ、不二くんの日直を代わりにやってあげたことがある……らしい。私自身はすっかり忘れていたけど、不二くん本人がそういうからそうなのだろう。不二くんがテニス部の大会の遠征でいなかったとき、席が隣だった私が代わりに業務をこなしていて、学校に帰ってみたら何もすることがなかったのだ、と。

「だからさ、お礼をさせてほしいんだ」

そう言われて、同窓会の帰りにちょっとおしゃれなバーに連れて行ってもらった。全て不二くんがおごるというから、普段は頼まないようなちょっとお高い酒も飲んですっかり忘れて良い気分になってしまった。日直ごときでこんなに幸せな気持ちになれて良いのだろうか、そう言って彼の顔を覗き込むと、いつもの穏やかな表情がちょっと驚いたような表情に変わって、それから少し照れ臭そうに微笑んだ。

「大丈夫だよ、ありがと、」

こんな不二くんの表情、初めてみた。