「なあ、お前テニス部に好きなヤツがいるってマジ?」
切原の不躾な質問に私は眉間にシワを寄せる。だってそういうこと、大勢の人がいる昼休みの教室で聞くべきではないでしょう? もっとなんというか……例えば放課後の夕日の差し込む静かな教室とかで聞いてもらいたいものだ。そんな私の思いを一切汲み取る気がない目の前のクラスメイトは「誰? レギュラー? 幸村部長?」と畳み掛けるように続ける。本当にデリカシーのない人、と思うものの無視するのも可哀想だから「幸村先輩ではないよ」と答えてあげる。
「部長じゃねーのかよ! あ、じゃあ丸井先輩?」
「ちがう」
「わかった! 仁王先輩だ!」
「それもちがう」
切原は順番に三年レギュラーの名前を挙げていき、私はそれに全て「ちがう」と答えていく。「……まさか真田副部長じゃないよな……?」と疑うような目でこちらを見てきたときは少し笑ってしまったが、そういうところ本当に失礼すぎると思うよ、切原。
「違うのかよ! じゃあ誰?!」
「……秘密」
吠える切原に、唇に人差し指を当てながらそう返す。
言えるわけないじゃない、目の前にいる不躾でデリカシーがないとっても失礼な人が、私の好きな人だなんて。
本当はこいつが俺のこと好きだって知ってる。だけど、クールぶってるこのクラスメイトはそんなそぶり一切見せないから、こっちから追い詰めて本音を吐かせてやる。昼休みの人が多い教室なら、きっとこいつは逃げられない。先輩の名前を眉一つ動かさないこいつは強敵だ。たぶん失礼な人、とかデリカシーがない、とか思ってるんだろうな。だけど、そんなの知ったこっちゃない。どんなに俺が失礼なことしたってお前が俺を好きだってことは、見てればちゃんとわかるんだよ。「秘密」じゃねーよ。早く言えよ、好きなのは目の前にいる男だって。