LOOK AT

 仲良しの朋ちゃんと桜乃ちゃんに頼まれて、ひとりで男子テニス部の試合を見に行くことになった。なんでも、唯一の一年レギュラーである越前リョーマくんの試合を応援してきて欲しいらしい。「テニスのことなんか一切わからないし本当に見に行くだけになっちゃうけどいいの?」と聞くと「それでいいの!結果はちゃんと教えてね!」と返されるから、じゃあいきましょう、となったわけだ。私、帰宅部だから、暇だし、試験も少し先だし。
 そんな軽い気持ちで試合会場に行ったものだから、まさか自分がそのコートに立つ選手に夢中になって帰ってくるとは夢にも思わなかった。それも、目的だったはずの越前リョーマくんではなく、彼の直前に試合をした二年生の先輩に。

「それでね、本当に桃城先輩が格好良くてね、足が痙攣していたのに三年生相手に勝っちゃったの!」
「アンタその話何回目だとおもってるの? 早くリョーマ様の話聞かせなさいよ!」
「まあまあ朋ちゃん、でもテニスの試合楽しんでくれたみたいで本当によかった」
 お弁当を食べながら「格好良かった、格好良かった」を繰り返す私の話を、朋ちゃんと桜乃ちゃんは優しく頷きながら聞いてくれた。時々急に発作のように深いため息をつきながら顔を覆うのを笑われたり、いつまでも二人が聞きたい越前くんの話をしないから怒られたりしたけど。ついに「先輩の試合してる姿を見ながら死にたい、」と呟くと、朋ちゃんはやれやれ、という風にため息をつく。
「そんなに試合良かったならマネージャーに立候補すれば良いじゃない。試合沢山見れるし。一年生のマネージャー探してるって堀尾がいってるの聞いたし。アンタまだ部活とか入ってないんでしょ?」
「そっか! そうだよね! 私、リョーマくんに推薦してもらえないかお願いしてみるね!」
「えっ、まってまって! そんな、昨日初めて試合見たばっかりなのに、マネージャーなんてできるわけないよ!」
 話の展開が早すぎる。立ち上がりかけていた桜乃ちゃんの手を、慌てて引いて引き止めた。確かにマネージャーになれば一番近くで試合を見ることができるけど、あまりに気が早すぎないか? 焦る私を朋ちゃんはキッと睨みつけてきて、桜乃ちゃんは困ったように笑いながらも再び椅子に座ろうとはしない。
「アンタ、試合会場で何を見てきたのよ! 足が痙攣している状態でも諦めず試合する桃城先輩を見て格好良いとおもったんでしょ!」
「そうだけど……、」
「朋ちゃんの言うとおりだよ、私もリョーマくんの試合を見てからテニス始めたし、まだまだへっぽこだけど、少しずつできるようになってきた、誰でも最初は初めてなんだよ」
「そうよ! やる前から諦めてどうするの!」
 私は桜乃ちゃんみたいにテニスがやりたいわけじゃないし、朋ちゃんみたいに明るく周りの人の背中を押すことができるわけじゃない。だけど、彼の試合をずっと見ていたいとおもった気持ちだけは本物だ。大事にしたい。だから、
「本当に、いいのかな、私がマネージャーやっても、」
 二人の表情がパッと明るくなって、大きく頷いてくれる。いつだって私の味方でいてくれる、この二人が好きだ。

 とはいえ、テニス部のマネージャーなんてきっとやりたい人が大勢いるだろうから、入部も抽選とかになったりするのかなと思っていた。だからダメ元で書類を提出したわけだけれど、レギュラーである越前くんの推薦(ということにしてもらった)があったから案外あっさりと入部届は受理されてしまった。予想外すぎて少し慄いてしまう。すぐそばのコートでレギュラーが打ち合いをしているのを横目で見ながら竜崎先生の話を聞く私は、きっとかつてないくらい青ざめた表情をしていたに違いない。なんどか先生に「本当に大丈夫か?」と聞かれた。正直、大丈夫ではない。
 だけど、あの日フェンス越しに見た三色のジャージが今にも手が届きそうな距離で揺れていて、心が震えたのは確かだ。彼らを側で応援できることを誇りにしたいとはっきり思えた。……私は、良いマネージャーになれるかな。
 頑張って頑張って頑張って、片足で跳び上がって重い球を放つあの背中を、見続けていたいな。