雨男の祈り

昨日から降り始めた雨がやまない。こんな日は中学の頃の部活の大会を思い出す。土砂降りの雨の中祈り続けたあの日、たぶん彼は、私のことなんか眼中になくて、誰よりも表彰台のてっぺんに恋焦がれていた。

手塚国光がテニスを始めたのがいつからなのか、私は知らない。私が彼に初めて出会ったときはすでに全国レベルといわれるほど強く、周りの上級生を圧倒するほどの実力を持っていたのは確かだ。
不運にも怪我や状況に邪魔され敗北を喫することはあったが、客観的に見ても彼は同世代のテニス選手の中で一番だと思っている。
プロになってからも天候が原因で良い結果を残せなかったことが多々ある。運が悪いのか、それとももしくは…、

「…手塚は雨男なのかもしれないね。」
「…そうかもしれないな。」

私の言葉に、手塚はガイドブックを片手に溜息をつく。お互いの休みが重なるめったにない機会だからと旅行の予定をくんだはいいが、こう雨に降られてはせっかく立てた予定もすべて台無しだ。

「天気予報もあてにならない、テルテル坊主もだめ。もうどうしたらいいかわかんないよ。」

イライラに任せてごろりと寝ころぶとい草の香りに包まれた。旅館の畳は湿気を含んで少ししっとりしているような気がする。
そんな私を見て手塚は少し何かを考えるように顎に手を当てて、それからゆっくりと口を開いた。

「…ならば、お前が晴れ女になればいい。」
「私が?」

聞き返すと、”そうだ”と彼は頷く。

「そんなこと言われても、お天気のことはわたしがどうこうしてなんとかなることではないでしょう?」

ちょっと呆れたフリをすると、手塚は眼鏡の奥の瞳をぱちくりとさせて「こういうのは気の持ちようでなんとかなるものではないのか?」と首をかしげた。
そのしぐさのかわいらしさが手塚に似合わなくて、そして誰よりも結果にたどり着くまでの努力の過程を大事にする彼が”気の持ちよう”とか言うのも似合わなくて、そのミスマッチな光景に少し笑ってしまった。
ふと外を見ると、雨はやんで遠くに虹がかかっていた。本当に彼の言う通り、空模様に関しては人の気持ちも関係しているのかもしれない。笑えば空は、晴れる。

「手塚、次はきっと…」
「あぁ、俺は負けない。」

本当は、次の休みの旅行のことを言っていたのだけれど…まあそれも間違ってはいないからよしとする。彼が望むのならば、太陽と勝利を呼ぶ女神になってやろうじゃないか。