
一目ぼれだった。
入学式のステージに登壇するときの凛とした横顔、正面を向いたときに見えたキリッとした眉、長い睫毛、鋭く綺麗な瞳。
そして、一度その人が口を開けば知性あふれる言葉と、低く響く声が、私の鼓膜を震わせた。
一つ年上のその人は生徒会長で、全国レベルのテニス部の部長。文武両道。才色兼備。どこをとっても完璧だった。
ただ私にとって不幸なことに、彼は完璧すぎた。完璧すぎて、遠く手が届かなかった。
昔から「見た目だけは完璧だ」と言われて育ってきた。黙って座っていればお人形のようだ、という言葉は何回聞いたか分からない。
氷帝学園に通っているだけあって、ちょっとだけ、一般家庭より裕福かもしれないけれど、本当にそれだけ。他の事に関しては平平凡凡。人並みとしか言いようがない。
一目ぼれした彼に少しでも近づきたくて、生徒会に入りたいと言ったときも、友人に「あんたは口を開けば馬鹿がばれるから、ニコニコして座っていればいいのよ。そうしたら、生徒会くらいいくらでも入れるわ。」と言われた。
そして、その通りにしていたら、本当に選挙で当選してしまった。その友人の、世の中やっぱり金と顔なのよという言葉に、苦笑いしか返せなかった。
そんなわけで、彼に近づくことができたわけだけれど、普通に普通の私では、生徒会の仕事なんて勤まらないわけで、それはもう厳しくびしばしと鍛えられた。
細かい事務仕事やお金の計算はもちろんのこと、勉強から普段の所作まで、副会長の小柄でかわいらしい先輩が懇切丁寧に教えてくれた。
そのおかげもあってか、友人に「あんた、最近ますます綺麗になったわね。」なんて言われた。順風満帆。このままあの人を振り向かせることができたら、もう何も欲しい物なんかない!…だが人生そううまくいくわけがなかった。
彼には好きな人がいる。きっと、生徒会に入って彼に近づかなければ気付かなかっただろう。
相手は、生徒会副会長の、私より小柄で、手足が短くて、ちんちくりんで、頬にそばかすがあって、笑ったときにできるえくぼがかわいくて、真面目で、優しい人だ。
普段から宝石のような色をしている彼の瞳だが、彼女の姿を映すと、より一層鮮やかに輝きだす。そして、普段あまり見ることができない、優しい色になる。
恋人同士、というわけではないらしい。というか、どんなに口説いても鈍感な彼女は全く気付いてくれないと、彼の愚痴を聞かされた(これもまた生徒会に入らないとできない貴重な経験だった)。
敵わないなあ、と思う。こうして恋の花を散らして言った女の子が、この生徒会役員の中に何人いるのだろうか。
「おい、。」
「はい、跡部先輩。」
それでも、今は、こうして彼に名前を呼んでもらえるだけで幸せだ。
背筋をぴんと伸ばして、いちばん美しい私で、返事をした。