ポケットからのあいず

占いだとか、おまじないだとか、ジンクスだとか、そういうのは女の子が好きなもので、男の子はあまり興味を示さないものなのだと思っていた。
でも案外、スポーツをやっている男の子ってそういうの気にするみたいで、例えば高校野球の選手なんかはマウンドにはいるとき必ず右足から入るようにしているとか、バットを構える前に少し降る回数を決めているだとかはよく聞く話だ。そうやって、習慣づけることにより、『何を変えたから失敗したか』がよく見えるようになったりもするらしい。

まあ、その程度なら許容範囲だ。認めてやろう。だけど、度が過ぎるのは考えものだと思う。占いやおまじない、ジンクスを気にするのは大いに結構だけど、気にしすぎなのは正直男らしくないし、鬱陶しい。

そんな話をイライラ混じりでしたら、我等が山吹中テニス部の絶対的エース、千石清純は心底驚いたというような顔をした。

「へー、そんなやついるんだ!」
「君の事だよ千石清純!何で自分で気づいてないんだよ!別に鈍くは無いのに!!わざとか!?わざとなのか!?」
「いや、だって俺はおまじないやジンクスに頼り切ってるわけじゃないし、俺自身のラッキーも含めてだし、それに俺そういうのに頼って負けちゃうような奴じゃないし!」

千石が自信満々にそう言い切ったあと、私達がグダグダしていた教室の横の廊下を、かわいい女の子が通りかかったため、話は一時中断になってしまった。
ニコニコしながら窓越しに女の子と会話する千石を横目でみて、こんなのがうちの絶対的エースでいいんだろうか、と考える。無意識のうちに、深いため息が出た。

「あ、ため息ついてるー。ラッキーが逃げちゃうぞー。」

「誰のせいだよ、誰の。」

爽やかにカラッと晴れて、絶好のテニス日和だ。

この試合に勝てば、次の大会に繋がる大事な試合。いつもはどちらかといえばのんびりとした雰囲気の山吹中テニス部員達も、今日ばかりはどこかピリピリしていて、緊張が伝わってくる。
そんな中、千石はいつも通りにストレッチして、いつも通りにちょっと目を閉じてイメトレして、いつも通りにラケットを握って、いつも通りにガットの張りを確かめている。
そんな習慣通りの行動をする千石をずっと眺めていたら、ふいに彼と目が合った。すると彼はニヤッと笑いウインクしてラケットを地面に軽くコツンとぶつける。コツン、コツン、コツン、コツン。続けて五回行われたその仕草は、いつも千石がやるおまじないではない、初めて見る動作だ。

「今の、何かのジンクス?新しく取り入れたの?」

聞くと、千石は数度瞬きしてから少し吹き出した。

「ちがうよー。今のは君へのサイン。ほら、南と東方もよくやってるだろ。」

なるほど、だからみたことなかったのか。でも、サインをみた私がその意味が分からなかったら、サインをした意味がないんじゃない?

「で、それ、何のサイン?」
「内緒。」

そう言って、千石はコートに向かう。そこに踏み入れるのも、いつもと全く同じ足だ。
この試合で千石が負けたら、さっき私に変なサインをしたせいになっちゃうのかな。それはなんかいやだなぁ。そんなことをぼんやり思いながら、彼の試合の時はいつもこっそり持ってきているお守りを両手でぎゅっと握って、今日も彼に幸運の女神が微笑むように祈った。