
朝のぴりっと乾燥した空気が肌に痛い。できるだけ冷たい風を受けないように、つい体を丸めてしまう。そんな季節がやってきた。
この時期の登下校ほど辛いものは無い。手袋を忘れたためコートのポケットに手を突っ込むと、隣に居た滝に「転けたときに手をつけないから危ないよ」と注意された。仕方ないじゃん。寒いんだから。というか、コイツは私がそんなにしょっちゅう転けるとでも思っているのだろうか。だとしたら、少し心外だ。私にそのようなドジッ子属性は無い。眉間にしわを寄せるたら「変な顔」とくすくすと笑われた。
「ちょっとちょっと。さっきから失礼なこと言いすぎじゃないですか、滝くん。」
「そうかな?」
「そうだよ。もう少し私の心を汲み取った発言をしてほしいな。」
寒さとイライラの相乗効果で表情が引きつっている私を見て「ごめんごめん」と言う滝は全く寒くなさそうで、少し、いや、かなり腹が立ったから、軽くその腕を叩いてやった。それでも「痛いなぁ」と言う滝はどこか楽しそうで、更にイライラが増した。
「そんなに怒らないでよ。ほら、これ、あげるからさ。」
「なにこれ?」
小さい子をなだめるように、滝が差し出してきたのはハンカチに包まれた物体だった。「触ってみたらわかるよ」という彼の言葉に従い、ゆっくりとそれに触れる。途端に、指先からじんわりと熱が伝わってきた。
「これ、カイロ?」
「うん、ずっと触ってたら、低温やけどするから気をつけて。」
頷く滝の手とカイロをまとめて自分の手で包んでみた。少し冷たい滝の手と、少し熱いカイロの温度を同時に感じて、なんだか変な気分になった。「どう?少しはあったまった?」と聞く彼の声には返事をせず、私は右手に滝の手を、左手にカイロを握った。