「あー!」

私の家の冷蔵庫を覗き込みながら、英二は大きな声を上げた。「どしたの、英二」と声をかけると、彼はしょんぼりした顔でことらを振り返る。

「俺のプリンが無い…」

そう言って、英二はちょっと俯いた。まるで叱られた子犬がしょんぼりしているみたいだ、と思う。前々から思っていたが、英二はどこか動物っぽい。テニスをしている時は『猫のようだ』と言われているようだし。とか、考えていたら「ねぇ、は俺のプリン知ってる?」と聞かれたため、ぼんやりと頭を巡らす。ふと、先日冷蔵庫に入っていた甘い誘惑をのことを思い出し「あぁ、あれ……」と小さくつぶやくと英二は「え、なに!?、知ってるの!?」と冷蔵庫を勢いよく閉めて、こちらに近寄ってきた。

「うん、」
「どこ!?どこにあるの!?」
必死な様子の英二を見て、思わず噴き出しそうになるのをこらえ、真剣な顔をする。そして大真面目に「食べました。」と伝えると、彼は「はぁ!?」と素っ頓狂な声を上げた。

「いや、だって、おいしそうだったし、名前書いてなかったし、食べていいのかなぁって思って…」
「駄目に決まってんじゃん!」
「そんなこと言われましても英二くん、私の家の冷蔵庫に入ってたんだから、ここはプリンを置きっぱなしにしていた君が悪いよ。っていうか、冷蔵庫の扉、開けっぱなしにしないでよ。節電しろ。」

英二はよく、一人暮らしをしている私のマンションに勝手にいろんなものを置いていく。
それこそ、動物が巣作りでもするみたいに。
あまり部屋に物を置きたくない性質の私は、その度に文句を言っているのだけれど、彼は聞く耳を持ってくれないのだ。だからまぁ、それなりの報復も必要だろうと思ったからこうしたわけであって、全面的に私が悪いわけでは断じてない。たぶん。
というのは、今考えた言い訳なのだけれど。まぁ、そういうわけだから許してもらおうじゃないか。
うんうんと頷くわたしを見て、英二が頬を膨らますものだから、指で突いてぷすっと空気を抜いてやった。そしたら今度は機嫌悪そうに唇を尖らせた。

「またそんな顔して、かわいい顔が台無しだぞ。」
「いいよ別にかわいくなくても、俺男だし」
「それもそうだねぇ、」

のんびりとそう言いながら彼の頭をなでると、思いっきり振り払われた。あら、冷たい。
でも、一応、英二のプリンを食べてしまったのは事実だし、ここは少しだけ、優しくなってみてあげましょうか。

「仕方がないからプリン、買いに行きましょう。二つ。」
「えっ、本当!?」
「本当だよ。早く準備して。寒いから、ちゃんとコート着て行くんだよ。」

「はーい」と返事はしていたけれど、ちゃんと私の話を聞いてくれているんだろうか。
きっと、おそらく、いや絶対に、英二は風邪をひきそうな恰好で外に飛び出して、帰り道で寒い寒いと震えることになるだろうなぁ、と思い、自然と笑みがこぼれた。きっと彼は少しでも温まるために手をつないでくるだろうから、それまでしっかりと手袋をはめて右手を暖めておこう。