
今日も先輩はたくさんの洗濯物を抱えてテニスコートの脇を走り回ってる。マネージャーって大変そうだなぁ、とか思いながらぼんやり見ていると、先輩が乾先輩とすれ違った。と、同時に乾先輩はもっていたノートで先輩の頭を軽く叩く。勢いよく振りかえった先輩は乾先輩に仕返ししようとしているけど、洗濯物が邪魔して攻撃できていない。そもそも体格差のせいで頭を叩こうと思っても届かないし、タックルをかましても全く効いていないようだ。そんなことをしているうちに乾先輩は先輩が持っていた洗濯ものの半分以上を奪ってしまった。どうやら運ぶのを手伝ってあげるつもりらしい。なにあれ、芋ジャーのくせにかっこよすぎじゃん。
「何見てるんだい、越前。」
「べつに、何でもないっす。」

その日は試合形式の練習の日で、レギュラーもそれ以外も入り乱れて打ち合っていた。あちこちから響くインパクト音を聞きながら水分補給していると、目の前のコートで乾先輩と大石副部長の試合が始まった。レギュラー落ちしたとはいえデータテニスは健在な乾先輩と、穏やかな性格だが恐らく青学1正確なショットを打つ大石副部長の試合だ。ギャラリーは自然と集まる。そのなかに、あの先輩も居た。普段はドリンク作りだのタオルの準備だので部内のランキング戦なんかはほとんど試合を観戦していることが無い先輩がここに居るのは珍しい。じっと見ていると、不意に先輩は親指を立ててウインクした。その視線の先を見ると、乾先輩がうっすらと笑ってこちらも親指を立てている。2人がその動作をしたのは一瞬だけで、見ているのは俺だけだったかもしれない。
先輩効果なのかそうでないのかは分からないが、この試合、乾先輩は大石副部長に勝利した。副部長と握手した後、最後まで真剣な顔で試合を見ていた先輩が乾先輩の背中をぽんと叩くのを確かに俺は見た。そんな2人を少しだけ羨ましいと思ったのは気のせいじゃないかもしれない。
「あの二人は見てて悪い気しないよね。」
「そっすね…って不二先輩いつからそこに…。」
「んー、ずっとかな?」

テニス部では部活が終わった後、交代で部誌を書く決まりになっている。今日は何時から何時まで活動したーとか、どんな練習をしたーとか、そんな感じで。で、今日の当番は乾先輩だったわけだけど、部誌を書く乾先輩の横に自然に、ほんとに自然に、それこそ『もともとここに座っていたんですよー、』みたいなかんじで先輩が腰かけた。で、乾先輩のことを急かすわけでもなく、かといって邪魔するわけでもなく、ただそこに居て乾先輩がペンを動かすのをじっと見つめている。たまに乾先輩の筆箱の中を漁って「こんなにカラーペン少なくてどうやってノートとるの…」とか呟いてる。それで、乾先輩がきょろきょろしだすと何も言わずに先輩が消しゴムを差し出すからこれが阿吽の呼吸ってやつなのかと妙に感心した。俺と越前がダブルスやったときとは大違い。なんか黄金ペアみたいだ。
しばらくして、部誌が書き終ったのか乾先輩が荷物をしまって立ち上がるのと同時に先輩も立ちあがって、ぼんやりと先輩たちを眺めていた俺に手を振り部室を出て行った。乾先輩と先輩のコンパスは明らかに違うはずなのに、隣を歩くテンポは同じで離れない。女の子と付き合うってこういうことなのかなぁ、なんて、なんとなく思った。
「あーあ、俺も彼女欲しーなぁ。」
「なら桃はその大雑把なところをちょっと直さないとね。」
「…余計なお世話っすよ不二先輩。」

「あぁ、もちろん。」
「知ってて何も言わなかったんだ。」
「別に見られて減るもんじゃないしな。」