くそくそ侑士め。無くしたボール探さずに帰りやがって。…まぁ、アクロバット失敗してコートの外にボール飛ばしちまったのは俺なんだけどさ。まったく、激ダサだぜ(宍戸、パクってごめん)。めんどくさいけど、無くしたままだったら会計の滝が結構うるさいからなぁ。
っていうか、ここ、落ち葉積もりすぎだろ。ボール捜しづらいし。たっく、ちゃんと整備しろよな…。

「向日くん、」

不意に名前を呼ばれて、思わず「うおっ」と声が出る。振り返るとそこに立っていたのは同じクラスのだった。「なんだか、」と息を吐いたら彼女は「『うおっ』はちょっと失礼なんじゃない?」と少し眉を吊り上げた。

「あー、ごめん、」
「別にいいけど。でも、向日くんがこんなところに居るのは珍しいね。どうしたの?」


今俺たちが居るテニスコートの近くのこの場所は、ちょっとした林みたいになっていて用事がない限り生徒はあまり近寄ろうとしない。俺がここに居るのをが疑問に思うのも無理ないだろう。「ちょっと探し物。」と無難に答えてから続けて「そういうはなんでここに居るんだよ」と聞くと、彼女は「私は練習。」と微笑みながら答えた。

「練習?何の?」
「バレエだよ。」
「…バレー?」
「バレーボールじゃなくて、踊る方の。小さい頃から習ってるんだ。火曜日と金曜日はレッスンが無いから、学校で練習してる。」

あそこの教室で練習してるんだよ、とは三階にある1つの窓を示した。「練習してたら、向日くんが見えたからさ、休憩ついでにちょっと話してみようって思って下りてきちゃった。」と楽しそうに言う彼女に、何故だか少しだけいら立ちを覚えた。クラスメイトちいさいころからしていることを知らなかったということが悔しかった。思わず返事が「ふぅん、」とそっけなくなる。

「向日くん、もしかして怒ってる?私、邪魔だったかな?」
「そうじゃねーけどさ」
「けど?」
「俺、がバレエやってること、知らなかった。」

俺が唇をとがらせながらそう言うと、は二・三回瞬きしてからくしゃりと苦笑いした。

「うーん、まぁあまりクラスの人には話してないからね。」
「なんで?」
「なんとなく、だよ。別に秘密にしているわけじゃないけど、聞かれないから話さないだけ。そういうことって、あるでしょ?」

首をかしげるに「…まぁ、そりゃそうだけどさ、」と返すことしかできなかった。なんだか煮え切らない、と思いつつもあることを思いた。目の前に居る彼女を見て「あのさ、、」と名前を呼ぶと、いつもの通り「なに?」と優しい声が帰ってくる。

「お前がバレエやってるの知ってるのって、俺だけ?」

そう聞くとは「うーん、」と少し考えるようなしぐさをしてからゆっくり口を開いた。

「教室を借りる許可とか取ってるから先生とかなら知ってるかもしれないけど…クラスの中では向日くんだけだよ。」
「ふうん、ならさ、これからはがあの教室でバレエやってることは、俺とお前だけの秘密な。」

「え、なんで?」と驚いた顔をするに向かって俺はにやりと笑う。知らなかったことが悔しかった、でも、知ってしまったものは仕方ない。それをそのまま秘密にしてしまおう。なんだかすこしだけわくわくした。

「なんとなく!別に意味なんか無いけど、秘密にしてみたいだけ。そういうことって、あるだろ?」

先刻のの発言を真似てそう言うと、彼女は再び何度か瞬きしてからくすりと笑って「わかった、じゃあ、これは向日くんと私だけの秘密ね。」と頷いた。

「あ、それとさ、、」
「なに?」
「見せてよ今度、が踊ってるとこ。」
「いいよ、向日くんだけ特別、ね」

そう言ってはまた笑った。同時に風が吹いて、落ち葉が巻き上げられてくるくるまわる。の周りで、紅葉が踊ってるみたいだと思った。
そういえば、ボール探すの忘れてた。ま、見つからなくてもきっと跡部がなんとかしてくれるから大丈夫だろ。

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