金ちゃんやケンヤと『ディズニーランドに行きたい!』って騒いでたらオサムちゃんが『ランドやなくてシーなら連れて行ってやるで』とか行ってきたからみんなでオサムちゃんが借りてきたボロいレンタカーに乗り込んだ。車の中は狭くて臭くて最悪だったけど、ディズニーシーに行ける!と考えたらそれにも耐えられた。やっぱり持つべきものは生徒に甘い顧問やな。だがしかし、私達の期待を裏切り、ボロいレンタカーが辿り着いたのはシーはシーでも隣県の海水浴場だった。…なんでやねん。
「なんやねんオサムちゃん!ほんまに信じられへん!」

砂浜に座り込んで猛る私を蔵が横に座って城を作りながら「まあまあ」と宥める。なんなんだこのパーフェクト野郎は、オサムちゃんに騙されて悔しくないのか。完璧な砂の城を作成する蔵は楽しそうだが、私の機嫌は最悪だ。ジト目で彼を見ると「オサムちゃんがあんな調子なのはいつものことやろ」と頭を撫でられた。そりゃあ、まあ、そうなんやけど、それでも期待がデカかった分だけ落胆も大きい。っていうか、砂を触った手で頭を撫でるな。意味もなく海に向かって「バカヤロー!」とか叫びたい気分だ。ケンヤはほんまに叫んでるけど。

「そんなにディズニーシーに行きたかったん?」
「うん」

蔵の問いかけに間髪を入れず頷くと、彼は困ったような顔をして「そうかー」とまた頭を撫でてきた。私の頭は蔵に撫でられてそのうち禿げるんじゃないだろうか。そんなことを考えながら蔵の顔を見ると、彼は普段はあまり見せない溶けるようなやさしい表情をしていた。その顔に見とれていると、不意に彼が「でもな、」と口を開いた。

「俺は、とここに来れてよかったと思うてるんやで?」

そんなことを言われたら、私が何も反論できなくなることを彼は知っているのだろうか。もし、知っていてやっているのだとしたら、コイツはとんでもないタラシだと思う。

「それでも、やっぱと海に行くなら二人っきりのがええなぁ。」
「え?」
「せやから、今度はまた二人で来ような、ディズニーには、連れてってやれへんけど」

そう言って蔵は、撫でていた私の頭をぽんと軽く叩いた。さっきまでの最悪だった気分はどこかに行ってしまったみたいだ。何も言わずに笑って頷くと、彼も笑顔を返してくれた。

「よし、完成や」

いつの間にか蔵の砂の城が完成していた。「うわ、凄い」と呟くと「エクスタシーな出来やろ?」といつもの調子で返された。

「うーん、その台詞が無かったらもっと手放しに誉めることができたんだけどな、」

苦笑いする私を見て、彼は「なんでやねん」と言いながらも楽しそうに笑う。
遠くの方からみんなの声が聞こえる。どうやら彼らもオサムちゃんを恨むことは止めて海で遊ぶことに思考をシフトしたようだ。名前を呼ばれて、蔵が立ち上がる。大きく手をふってから私の方を振り返った。

「さ、、俺らも行くで」
「うん」

差し出された手を握った時に感じた熱は真夏の砂浜よりもあつかった。