ジローくんはよくふらっといなくなって、そのまま帰ってこなくなる。そういうときは大抵心地いい所(夏は涼しいところで冬は暖かいところだ)を本能的な何かで探して眠っているんだけど。で、行方不明になったジローくんを探すのが私や岳人くん、亮くんといった幼なじみの面々の役割だった。中学生になってから、岳人くんも亮くんもテニスの練習で忙しくなってしまったから、今はジローくん捜索隊の隊員は私一人だけになっていた。
今日も相変わらずどんなときでもよく眠るジローくんを、彼が見つからなくて少しイライラしている跡部くんを宥めつつ必死で探す。というか、ジローくんもテニス部で忙しいはずなのに、こんなことしていていいんだろうか…良くないんだろうな、跡部くん機嫌悪いし。それでもなんだかんだ言いつつジローくんが消えてもしばらくは探さずに眠らせているんだから、氷帝のキングも甘いなぁ、とか思いながらも中庭を覗き込むと、木の下のベンチの上で風にふわふわな金髪をなびかせながらお目当ての彼は寝息をたてていた。彼が眠り始めた頃は日影になっていたのであろうそこは、太陽が傾いてきたせいで陽当たりがよくなってしまっていてとても暑そうだ。

「ジローくん!起きて!」

声をかけながら彼の肩をゆすると、うっすらと目を開いて「まだ眠い…」と呟いて再び目を閉じた。それじゃ困るんだって!焦って「寝ちゃダメだよ!跡部くんが探してるよ!」と声を大きくし、最初よりも強く肩をゆすってもジローくんは「んー、じゃあ跡部ここに連れてきて…」と言って寝返りを打つだけだった。

「無茶言うな!それに、こんなところで寝てたら熱中症になっちゃうよ!」
「熱中症…?」

熱中症になるのは流石に怖いんだろうか、ジローくんはのんびりと目を開け、ゆっくり起き上がった。ただし、まだぼんやりとした顔をしてはいるけれど。

「やっと起きた!ほら、ジローくん、跡部くんのところ行くよ!」
「跡部のとこには行くけどさー」
「『けど』って何!?」

煮え切らない態度に、むっとしてバシンと背中を叩いてもびくともしない。それを全く気にせずに、ジローくんは「跡部のとこに行く前にちゃんにお願いがある」と言って私の顔を見た。その顔がさっきのぼんやりした顔とは打って変わって真剣で、すこしどきっとしまった。

「…お願いって何?」
「あのさ、ちゃん、『熱中症』ってゆっくり言ってみて?」

沈黙が訪れる。私の頭に浮かぶのは、今目の前に居る彼と全く同じセリフを言う赤い頭の少年。その後のやりとりを思い出した私に、今ジローくんに言う言葉は「やだ」の一言以外に考えられなかった。案の定、彼は「なんでー!?」と頬を膨らませる。その姿は子供みたいにかわいらしくて、少し罪悪感を覚えるが、これだけは譲れない。「その遊び、この前岳人くんにもやられた」と言い訳を述べると「えー、」と物凄く残念そうな顔をされた。

「ずるいー!がっくんずるい!」
「ずるいって…『言ってみて』って言われてそれに従っただけで、他にはなにもしてないよ?散々からかわれたけど…」

「あ、岳人くんの場合は『言ってみそ』か…」なんて呟く私を無視してジローくんは「それでもずるいー!」とさらに頬を膨らませた。なんだか金色のタコみたいだ、と密かに思う。

「あーあ、もっと早く言えばよかったー」
「そんなに岳人くんがずるい?」
「うん!だって、俺だってちゃんに『ちゅーしよう』って言われてみたいC!」

一瞬、何を言われたかわからなくて「…え?」と声にだしてしまった。ジローくん、それはもしかして、そういう意味なのかい?私、自意識過剰だから、すぐに調子に乗っちゃうよ?
そんなもんもんしている私に気づいているのかいないのか、ジローくんは「仕方ないかー、跡部のとこ行こー、」とか言いながら立ち上がる。「ちゃーん、跡部てどこに居るのー?」と聞かれて「部室!」と答えた声は、少し掠れていた。「わかったー」と笑顔でこっちを見るジローくんがまぶしくてたまらないよ。
そうして歩き出したジローくんの背中を見ていたら、彼は不意に立ち止まって「あ、そうだ」とこちらを振り返った。

ちゃんに言ってもらわなくても、俺が自分で言えばEじゃん!」
「はい?」
「ねっ、ちゃん、ちゅーしよう!」