深い 深い 海だ。
冷たくて そして 暗い。
そんな海に私はどんどん沈んでいく。
水面に手を伸ばそうとしても 波が邪魔して触れなかった。
びっしょりと汗をかいて、私は目を覚ました。無意識に伸ばされた手をおろす。いやな夢を見た。安堵と疲労の入り交じった溜め息をつく。隣に居る蓮二は静かに寝息を立てて眠っていた。まるでしんでいるみたいだ、そう頭をよぎり、先刻の夢を思いだし、少し恐ろしくなった。
目を閉じるのが怖くて、何度も寝返りをうつ。起き上がって何か飲み物でも飲めば少しは落ち着くのかもしれないが、電気をつける前の真っ黒な部屋に立つことすら怖くて、布団の中から出られずにいた。
「、」
何度目かわからない寝返りを打ったとき、蓮二がかすれた声で私の名前を呼んだ。寝ぼけているのか、と思ったが、続けて「眠れないのか」と声をかけられる。どうやら、起こしてしまったらしい。「うん」と小さく返しながら蓮二の方を見ると、彼は「そうか」といつものように笑っていた。
「ごめんね、」と眠りを妨げたことを謝ると彼は「大丈夫だ」と私の顔に手を近づけた。ゆっくりと頬をかすめてから、目隠しをするようにその大きな手で瞼を覆う。
「俺が居る。」
だから、安心して眠ればいい。海の底に沈むように私にゆっくりと染み込んでくるそのやさしい言葉にぎこちなく頷くと、彼は目隠しをした手とは反対の手で私の頭を撫でて「いいこだ」と呟いた。
そうしてまた私は眠りに落ちる。
次に深く沈んでいくのは光が差し込む暖かい海だ。
