どれもこれも疎ましいが、杭やにんにくは避けようと思えば避けること ができる。だが、太陽の光となれば話は別だ。朝になればどんなに抗っても昇ってくる『アレ』。バンパイアは数分間その光を浴びると火傷をしたように肌が赤 くなり、一時間もしないうちに溶けてしまう。恐ろしい、不吉だ、滅びてしまえ。そんなことを言っても『アレ』が昇らなくなることはなかったし、世界から昼が無くなることはなかった。

「彼は太陽の様な男だ」そう言ったのはどこの誰だっただろうか。上手いことを言ったものだ、とひそかに思う。豪快に笑う様はまさに太陽。そして、バンパイアである私にとって不吉なもの。彼にかかわると本当に、碌な事が無い。
冷たい夜で生きる私に、彼、笹川了平は熱すぎるのだ。

宛がわれた部屋で書類をまとめる作業をしていた時、急に彼が部屋に入ってきた。いつもはこの部屋に入ろうともしない癖に。
今は仕事をしているから邪魔をしないでくれ、というか・女性の部屋に許可を得ずに入るなんてとても失礼だ、と年代物の事務用のいすから立ち上がって抗議しようとした。が、その前に彼が「、探したぞ」と静かな声で言った。
時々彼は、普段からは想像できないような静かな声を出す。そのほうが自然で、好感が持てる(私の個人的な意見だが)。でも彼がそんな声を出すのはいつも一瞬だけで、そのあとはすぐに普段の彼に戻ってしまう。だが、その声を聞くと、私は何も言えなくなるし、彼に逆らえなくなるのだ。
椅子に座ったまま手を動かしながら「何の用だ」と見ると、彼は少し笑ったような気がした。
「沢田が『早く書類を出せ』と極限におこっているぞ!」
「……あのボンゴレはその程度のことではおこらないだろう」
「む、それもそうだな」
この男と話しているとペースが狂う。昼間働かなくてもいいから都合がいいという理由でイタリア最大級のマフィア、ボンゴレファミリーに属している私だが、何 をどう間違ったのか笹川了平率いる晴隊の専属秘書として配属されてしまった。てっきり、黒装束の暗殺部隊や、もっと怪しい技術部なんかに配属されると思っていたのに。バンパイアが『晴れ』だなんて、笑ってしまう。
もうすぐいまいましい『アレ』が顔を出す時間だ。私は立ち上がって大きく伸びをした。バンパイアなんて昼間動けないだけで、あとは人間とほとんど一緒。長時間のデスクワークは退屈だし、とても疲れる。
ドンボンゴレに頼まれていた書類はもう仕上がっていた。隊長殿に任せていたらあと二日はかかっていただろう。まったく、困った男である。
「そろそろいってくる、日が昇る前に済ませないと昼間は動けないからな」
「む、そうなのか」
お前の体質は極限によくわからん、と彼がつぶやく。私からしてみれば、どうして彼らが太陽の下に出ても大丈夫なのか、そのほうが不思議だ。
書類を重ねて、まとめて、立ち上がり、ドアをくぐろうとしたそのとき「」と本日二度目の例の静かな声で彼が私の名前を読んだ。
振り向いた頬に柔らかいものが触れて、離れた。
「わすれものだ」
そう、彼は照れくさそうに言って、私を追い越して部屋を出て行った。
部屋に私はひとり残されて、茫然自失。綺麗にまとめた書類はすべてゆかにバラバラに落としてしまった。
ああ、書類をまとめなければ、日が昇ったら動けないのだから、その前にドンボンゴレに渡さないと
そう思っても、足は少しも動かない。まるで溶けてしまったように。

太陽に超時間当たり続けたバンパイアの最後を思い出した。
溶けて、消えてしまうのだ。