
上司と部下//木手永四郎
「で、くん、これはどういうことですか」
木手さんが額に青筋を浮かべて私と水浸しになった書類を交互に見る。「本当にすみませんでした」と土下座しても、彼の怒りは収まりそうにない。とりあえず、書類を作りなおそうとそろりそろりと立ち上がると、木手さんは深い深いため息をついた。
「仕方がないですから俺も手伝ってあげましょう。今日は徹夜ですよ。」
「ほんとですか!流石木手さん!!!そこにしびれる憧れる!!」
「まじめにやらないとゴーヤですよ」
「はーい」
(110906)

重要人物とSP//仁王雅治
「おまえさんが、ここの社長の娘じゃな。近くで見たのははじめてじゃけど、やっぱりかわいらしい顔をしとるのう。」
「ちょっと、なにしてるんですか!触らないでください!SPを呼びますよ」
「ほう。それじゃ、俺がそのSPの中の一人だったってことになったら、お前さんはどうなってしまうんかのう?」
「はい?」
「人数がおおいから奴らの中に紛れ込むのは簡単だったぜよ。」
「と、いうことは……」
「想像通り、お前さんが頼りにしとったSP達は今頃床でおねんねじゃ。」
「ちょっと、まって」
「待てん。すぐに何も考えられんようにしちゃるき、覚悟しときんしゃい。」
(110815)

主人と執事//柳生比呂士
「柳生、紅茶が飲みたいわ。」
お嬢様の言葉に従い、熱い紅茶を淹れます。お砂糖はいつもと同じ二つ。琥珀色の液体が入ったカップを机に置くと、お嬢様はそれを持ちあげて一口飲み「やっぱり柳生の紅茶が一番ね」と微笑んでくれます。
その丁寧に装飾が施された陶器に、私が口付けを施してから差し出していることを知ったら、彼女はどのような顔をするのでしょうか。
(110831)

コンビニ店員と客//乾貞治
いつもノートを買って帰る男の子が居る。そんなにノートの消費が激しいなら、近くの文房具屋で五冊とかまとめ売りしているものを買った方が絶対安いのに、不思議だ。そんな風に思っているのを知っているのか知らないのか分からないけれど、今日も彼は、同じノートをレジに立つ私に差し出す。密かに私がその瞬間を待っているのを、彼は気付いているだろうか。
(110905)

絵描きとモデル//イタリア
「なんだか、思うようにいかないの」
「そっか、絵を描いているとね、俺にもあるよ、そういう時。」
「え、フェリシアーノにもあるの?」
「もちろん」
「そういうときは、どうするの?」
「描いて、描いて、描きまくる。自分が満足するまで。」
「それでも、満足できなかったら?」
「…そうだなぁ、描くのをやめる、かな」
「やめちゃうの?」
「うん。料理作ったり、本読んだり、女の子ナンパしにいったり、好きなことをする」
「へぇ」
「そしたら、君に出会った」
「私に?」
「そう、君に出会ってから、また、絵が描きたいなぁって俺は思ったんだよ」
(魔女の宅急便より//110722)

ウェイトレスと客//丸井ブン太
「トマトのパスタと、チーズハンバーグ、エビグラタンと、マヨコーンピザと、それからデラックスパフェ!」
それだけ言い切ると仁王が「全部食べる気か」と信じられないというような顔をしてこちらを見てきた。あったり前だろぃと鼻を鳴らすと、ウェイトレスのお姉さんが苦笑いした。いつも通ってるこのファミレスで一番かわいいお姉さんだ。この人が担当だなんて、今日はラッキーな日なのかもしれない。
「仁王は?」
「俺は丸井が食べるところを見てるだけでおなかいっぱいぜよ。ドリンクバーだけでいい。」
「あっそ。あ、お姉さん俺もドリンクバー!」
お姉さんはにっこり笑って「ドリンクバーふたつですね」と手元の機械に打ち込んでいく。うん、やっぱかわいい。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「あー、えっと、ちょっと待って、」
「なんじゃ丸井、まだ食べるんか」
「違ぇよ。…お姉さんをお持ち帰りって…できます?」
そう聞くと、お姉さんは「ちょっと難しいですね」とまた苦笑いした。
(110825)

ドSとドM//六道骸
「これは何のつもりですか骸さん、」
「見て分かりませんか、手錠です。」
「はぁ?」
「ドSとドMというお題なのでそういうことをしてみようかと思いまして」
「うん、わかった。分かったけどやめよう?」
「何でやめなきゃいけないんですか?こんなに楽しいのに、」
「……地に堕ちろ変態パイナッポー」
でも、こいつにこんなことされてちょっと興奮している私も少なからず変態なのかもしれない。
(110831)

要人と暗殺者//白蘭
「本当に、こんなもので僕を殺せると思ったの?」
彼は私の所有物である持つ黒光りする銃をまじまじと眺めながら問う。膝の震えが止まらない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。そんな私を見て、彼はにっこりと笑い、そして、私の方へ銃口を向ける。
「こんなので殺せるのはね、君みたいなちっぽけで何の価値もないようなヤツくらいなんだよ。」
これでぼくはころせない その言葉を聞いた最後に、私の意識は途絶えた。
(110815)

スパイと敵国のスパイ//フランス
スパイなんて引き受けるんじゃなかった。諜報活動で潜入した隣の国では、悪いことしか起こらなかった。季節の影響か仕事をしている間は毎日雨ばかりだったし、ホテルに泊まったときはお気に入りの靴下無くしたし、道を歩いたときはあちこちに放置されている犬のフンを踏みまくった。
イライラしながら自国へ向かう飛行機に乗り込む。帰ったら眉毛…じゃなかった、上司に文句を言ってやろうと心に決めて、勢いよく座席に腰を下ろした。すると、隣に座っていたふわふわした金髪のお兄さんがクスクス笑ってこっちを見てきた。はっとして思わず畏まる。みるみるうちに頬に熱が集まっていくのを感じた。
「俺の国で何か腹が立つことがあったのかい、お嬢さん?」
「えぇ…まぁ…いろいろと…」
言葉を濁しながら答えると、またお兄さんはクスクス笑った。
「でも、また来てほしいな。フランスはとてもいい国だよ」
そう言ってお兄さんはにっこり笑う。それが、とてもきれいで、思わずきゅんとしてしまった。いいところあるじゃないかフランス。「ね?」と首を傾げるお兄さんに私も笑顔を返した。
「ところで、お兄さんはイギリスに何しに行くんです?」
「俺?俺は…そうだなぁ、諜報活動とでも言っておこうか。」
「ついでに君の家にもスパイしに行っちゃおうかなと思ってるんだけど、どうかな」そう言って、お兄さんはぱちんとウインクを飛ばしてきた。…やっぱり、フランスという国は碌なもんじゃないかもしれない。
(110908)

許婚//雲雀恭弥
恭弥さんは私のことが嫌いなんだと思ってた。会っても目も合わせてくれないし、話をしてもその返答は冷たいものばかり。同い年の筈なのに、なにを考えているのか全くわからない。私達は許嫁、のはずなのに。
そんな恭弥さんが、今私の目の前に立って花束を差し出してきている。「こ、これは…?」と思わず彼の顔を見ると「見てわからないの?」と不機嫌そうに睨みつけられた。
「何のために…?」
「君にあげる他に僕がこれを持っている理由があると思う?」
そして彼は私の手にその花束を押しつけてきた。呆然とする私をそこに置いて、彼はこちらを見ることなく立ち去った。
(110728)