プロデューサーとアイドル

最近普通科の女子生徒たちからのに対する些細ないたずらが増えてきている。持ち物がなくなる・傍を通るたびにくすくす笑われるという簡単だが地味にストレスがたまるなものから、上履きに画びょうを仕込まれる・外を歩いていると『たまたま』上の階から何かが降ってくるという危険なものまで様々だ。

もちろん、そうやって嫌がらせをされることは不快だし、先生たちにも逐一報告や相談をしている。が、自分がプロデュースしている彼らにこのことを言うつもりはなかった。……いや、言うことはできないと思っていた。
そんなことを言ったら、優しい彼らは必ずの心配をするだろう。犯人捜しをを始めたり喧嘩をふっかけたりしてしまうかもしれない。これからアイドルになるかもしれない・ならなければならない彼らに、プロデューサーであるがそんなことをさせるわけにはいかないのだ。
これは自身の問題だ。大丈夫、自分が耐えていれば、向こうもいつか飽きるだろう。

明星スバルという少年は他人の変化に敏感である、とは思っている。本人は『俺はそういう気が回らない』と言ってはいるが、スバル自身が考えているよりも、彼はきちんと周りのことに気づくことができるし、気づいたうえで場を明るくしようとすることができる、そんな人物だ。
杏子が隠しているはずの少しの変化に気付いて最初に声をかけてきたのも彼だった。

「ねえ、、最近元気ないよね。大丈夫?」

調度下駄箱に詰め込まれていた呪詛のような罵詈雑言が書かれた紙を眺めていたは、あわててそのぐ紙切れをぐちゃぐちゃに丸めてさっとポケットの中に隠そうとした。が、それより早く彼に手首を掴まれる。そのまま彼はの手にできたすり傷や切り傷をまじまじとながめて心配そうに眉を下げた。

「裁縫してる時にできた傷…だけじゃないよね。どうしたのこんなに…、」
「な、なんでもないよ。」
「じゃあ、これは何?」

手の中の紙切れをするりと抜き取られ、が止める間もなく広げられる。書かれていた内容を呼んだスバルは目を見開きを見て何かいいかけた。が、がそれを遮るように「大丈夫、」と言葉を発する。

「大丈夫だよ、本当に、なんでもないから。」
「……なんでもないことないだろ!」

スバルが声を荒げる。そんなことは滅多に無いことだから、は驚いて何も言えなくなってしまう。

「俺さ、今怒ってるよ。のことこんなふうにしたやつにはもちろんだけど、俺たちにちゃんと言ってくれなかったにも、怒ってる。」
「でも、それは……」
「…はプロデューサーで、俺たちはアイドルだから、そういうこと相談できなかったんだって、わかってるよ、わかってるけど、俺たち仲間だろ…?」

スバルが悲しそうな顔をする。そんな顔をしないで欲しい。彼には、キラキラとした笑顔が一番似合うのだ。
それに、女子生徒たちから受けている嫌がらせは自身の力不足のせいでもある。がしっかりと、彼らを導いて、プロデュースして、最高のアイドルに育てることができたら、こんなつまらない悪戯はきっとなくなるはずだ。だから、我が侭だとはわかっているが、スバルくにはいつもきらきらの笑顔でいてほしかった。のプロデュースは間違っていないと、証明して欲しかった。

がぽつりぽつりと語る言葉を、スバルは笑ったりからかったりすることなく聞いてくれた。

が、思ってることはわかった。俺たちの、未来のこと考えて、言わないでいてくれたんだよね。」

本当は、分かりたくないけど。と付け加えながらそういうスバルに、思わずは苦笑してしまう。「ごめんね」と謝り少し頭を下げると、スバルは「は悪くない」とまっすぐ彼女の目を見て、傷ついてぼろぼろになったその両手を取った。

「ねえ、俺、すごいアイドルになるから。が思っているよりもずっとずっと。だから、覚悟しておいて。」

そう言ってスバルは悪戯っ子のようにきらきら笑う。やっぱり彼には、一等星のような笑顔が一番似合う。