
「ひまわりを、植えようと思う。」
それは、1年3組のクラス担任の突然の思いつきだった。
「もう種は買ってきてあるし、花壇も借りたから…。今日が日直の影山と…あとほかに手伝えるものは今日の放課後裏庭の花壇の前に集合。以上。」
*
そんなことを言われても、ボランティアで花壇作りなんか高校一年生がしたがるわけもなく、担任も「会議がある」とかで私にひまわりの種の袋を預け職員室に行ってしまい、裏庭にはひまわりの種の袋を持った私と、錆びたスコップを2本持った影山が残された。
正直、影山とはほとんど話をしたことがないからとても気まずい。「とりあえず、耕すか。」と影山にスコップを手渡され、頷く。私はこの時間耐え切れるのだろうか。
小さなスコップで花壇の土を耕しつつ、となりで同じ作業を行っている影山を横目で見る。私は影山のことをほとんど何も知らない。バレー部であるということはかろうじて知っているが、好きなもの・嫌いなもの・交友関係、何一つ知らない。話をしたことがないのだから当然といえば当然なのだが。
男子たちと一緒にいると目立たなくなるけどとても背が高いこととか、少しぶっきらぼうな喋り方をすることとか、今日初めて知った。無愛想だけど、そのへんのチャラチャラした男子たちより、よっぽど好印象かもしれない。
花壇を耕し終わり、あとは穴を掘り、種を埋めていく作業だ。夏が近いからか、日に日に強くなってきている日差しにじりじりと背中を焼かれる。
「早く終わらせるぞ。部活の練習時間なくなる。」
汗を拭いながらそういう影山に「影山、バレー部だよね?」と聞くと、彼は「ああ。」と頷いた。
「影山はさ、部活楽しい?」
「いきなりなんだよ。」
めんどうくさそうに影山が答える。私は、そんな影山の顔を見ずに、ひまわりの種の袋を開けながら続ける。
「だって、バレーって結構地味なスポーツだし、そんなに面白いの?」
沈黙が訪れる。『あ、失言だった。』と影山の目を見なくてもわかった。彼をまとう空気が一気に冷たいものに変わった。
殴られると思った。だが、影山は私をキツく睨んだだけで、何もしない。無言で手に持ったスコップでザクザクと土を掘るだけだ。私は影山が掘った穴に順番に種を埋めていく。
「おい、」
ずっと黙っていた影山が不意に声を上げた。「な、なに?」とおもわず裏返ったどもり声で答えてしまう。
「来月インターハーイの予選がある。」
「…だから?」
「見に来い。バレーボールが地味なスポーツじゃないって思い知らせてやる。」
そう言って影山はどさどさと土を種にかけた。
影山ってこんなに熱いヤツだったんだ。こんなに真っ直ぐな瞳で語る彼を初めて見た。彼は心からバレーボールと真剣に向き合っているんだろう。まるで、初恋をバレーに捧げましたとでもいうように。
「影山、」
「なんだよ。」
「行くよ。インターハイ。かっこいいとこ見せてね。」
私がそう言うと、影山は当然だというふうにフンと鼻を鳴らした。
*
そして、この種が花を咲かす暑い夏、ひまわりのようにスっと背筋を伸ばしてボールと向き合う影山の試合を見ることになる。
私が彼の視線の先のボールになりたいと思うようになったのは、その試合を見てからだ。