レンタルビデオショップでは一人頭を抱えていた。
視線の先には一人の少年。彼女のクラスメイトである竜ヶ峰帝人である。その、ありふれた、とはとても言い難い名字と、自らクラス委員という面倒な役職に立候補した人物、ということで、四月に高校に入学して一番に顔と名前が一致したのが彼だった。
彼自身は、大人しくて、こういっては失礼かもしれないがはっきりいって地味な性格で、顔もいまいちぱっとしないのに、だ。
彼がレンタルビデオショップに居ること自体に文句を言う気はさらさらない。クラス委員が駅前のレンタルビデオショップでDVDを借りて、何が悪いというのだろうか。竜ヶ峰帝人だって、映画なんかを見て暇つぶしをしたくなることもあるだろう。
それにしても、なんでDVDをレンタルしているにもかかわらず、『レンタルビデオ』という名称が定着してしまっているのだろうか。AVだって、『アダルトビデオ』の略だ。いまどき、ビデオでそれを見る人なんてそうはいないだろうに。はるか昔にビデオとして発売されたおおくの作品も今では薄くて軽い円盤に焼きなおされているというのに。
さて、なぜここでがじっと彼・竜ヶ峰帝人のことを見つめているかというと、その理由は彼女が手に持っているレンタルビデオショップのカードにあった。
それは、彼女のものではない。帝人が落としたものを、拾って、そのままずっと持っているのだ。帝人の存在には、彼が店に入ったときから気付いていた。
前述したように、彼は派手な容姿をしているわけではない。それなのに、彼が来たら、の周りは今までかかっていた霧がいきなり晴れたように明るくなったのだ。
これまでも、そのようなことが何度かあった。彼が、教室に入ってくると、周りが明るくなるのだ。それは、彼のことが好きなんだよ、と仲の良い友人はに言ったが、いまいちピンとこなかった。
閑話休題。そう、だから彼が店に入ったときからずっと、ずっと見ていた。
いや、見ていたのではない。
めがはなせなかったのだ。
竜ヶ峰帝人という少年から。
そのおかげ、と言っていいのかどうかは分からないが、彼がカードを落としたのに気付けたし、それを拾って、今ここに居るわけなのだ。
が、もし、彼が、カードを落としたことに気がついて、レンタルビデオショップのどこを探してもカードが無かったら、彼はどんな顔をするだろう、そして、そんな彼に、このカードを返すことができるのだろうか。そう考えると、気が気ではなかった。
そうこうしているうちに、彼はレジの前に並んでしまった。店員にカードの提示を求められて、ポケットを探し、財布の中を探す。そして、カバンの中も。
途方に暮れたような顔をする彼に、は小さく、「竜ヶ峰くん、」と声をかけた。
「……さん?」
気づいてくれた!気づいてくれた!それだけで舞い上がって言葉が出なくなる。
どうした、じぶん。彼はただのクラスメイトの男子だぞ、と自分自身に言い聞かせながら「これ、落としていたよ」と彼のカードを差し出す。
そして、帝人が礼を言うのも聞かずに、はレンタルビデオショップを後にした。